【第三章 第3節 実用新案件】

1.実用新案権(1−31,2−59)
実用新案とは、産業上利用できる考案で、物品の形状、構造または組み合わせに関するものをいう。考案とは、自然法則を利用した技術的創作をいう。特許権の対象である発明との違いは、技術の高度さにある。実用新案権は、特許制度からもれた技術的創作について独占排他的な権利を付与することで創作意欲を高め、もって産業を発展させることを目的とする。つまり実用新案制度の存在意義は、特許制度の補完にある。
考案は出願後極めて短期間で実施され、実施される期間も短いことから、これに対する制度は小回りがきくものが望ましいといえる。そこで実用新案法は、特許法と異なり出願後形式的審査のみで実用新案権の設定登録を行う早期登録制度を採用している。また、実用新案権の存続期間も10年と短いものになっている。
形式的審査のみで設定登録を行うと保護に値しない考案にも独占排他的な実施権が認められる可能性がある。そうした事態を避けるために、実用新案法は、種々の規定を置いている。具体的には、権利行使後に登録が無効となった場合に、損害賠償責任を負わせるなどがある。

【第三章 第2節 特許権】

1.特許法(1−25,2−53)
特許法は、発明の保護と利用の調和を図ることによって、産業を発展させることを目的としている。つまり同法は、一方で発明者に特許権という独占的な利用権を与えることで発明を促すとともに、他方で発明内容を開示させ一定期間経過後には誰でも利用できるようにすることで、産業を発展させることを目指している。
特許法によって与えられる特許権とは、発明(=自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの)を独占排他的に利用する権利をいう。発明には、?物の発明、?方法の発明、?物を生産する方法の発明の三種類がある。これらのどの種類にあたるかによって、特許権の効力を画する実施行為が異なる。たとえばプログラムを含む物の発明については、ネットワークを通じた配布を含む物の譲渡などが実施行為となる。これに対して方法の発明については、その方法を使用する行為が実施行為となる。物の発明の物にプログラムが含まれ、譲渡にネットワークを通じた配布が含まれるとされたのは、プログラムなどIT技術に関する特許保護教科の要請やネットワークを利用した取引促進の要請が社会的に高まっているからである。

2.特許要件(1−26,2−54)
特許権を与えられるためには、?産業上利用可能性、?新規性、?進歩性からなる特許用件を満たす必要がある。仮にこれらを欠く発明に特許権が与えられても、無効審判により遡及的に特許権がなかったものとされてしまう。

(1)産業上利用可能性
一般産業として実施できない発明には、産業上利用可能性を欠くものとして、特許権が与えられない。それは、特許法特許権を与える目的は、産業に役立つ発明を促し産業を発展させることにあるからである。

(2)新規性
すでに社会に公開されている発明には、新規性を欠くものとして、特許権が与えられない。それは、特許法特許権を与える目的が発明を公開させることで産業を発展させることにあるからである。
新規性を欠くとされるのは、発明が特許出願前に日本国内または外部において、?公然と知られている場合(公知)、?公然と実施された場合(公用)、?刊行物に記載された(刊行物公知)またはインターネット等を通じて公衆が利用可能となった場合、である。
ただし?〜?の場合(新規性の喪失)でも、例外的に特許が受けられることがある。
なお先行技術文献情報の開示制度の導入により、出願時に出願人が知っている先行技術文献情報を開示しなければ、出願を拒絶されることとなった。これにより新規性判断が一層実効的になされることが期待されている。

(3)進歩性
当事者が出願時における技術水準から容易に考え出すことができる発明には、進歩性を欠くものとして、特許権が与えられない。ある程度高度な発明でないと、産業を発展させるために役立たないからである。

3.特許を取得する手続(1−27,2−55)
?出願:「願書」+「明細書」を特許庁に提出する
 ↓
?出願公開:出願日から1年6ヶ月後に「公開特許広報」に自動的に掲載される(出願公開制度)
 ↓
?審査請求:出願日から3年以内に「出願審査請求書」を提出し、出願内容の審査を開始してもらう
 ↓
?審査:審査請求に基づいて、審査官が特許してよいかどうか審査する
 ↓
?特許査定:審査の結果、特許して良いとの判断がなされる
 ↓
?特許料納付:定められた特許料を納付する
 ↓
?設定登録:特許登録原簿に設定登録し、ここではじめて特許権が発生し、特許証を交付してもらう
 ↓
?特許広報掲載:特許権の内容が「特許広報」に掲載される

(1)出願
鄯 特許を受けられる者
特許出願は、「特許を受けようとする者」がなす。特許を受ける権利は原始的には発明者に帰属するので、まず発明者が特許を出願することになる。ただし、特許を受ける権利は移転することができるので、この権利を譲り受けた第三者(承継人)も特許出願ができる。この場合特許権は、承継人のものとなる。
企業の従業員などが職務に関してなした発明を特に職務発明という。この場合も原則通り特許を受ける権利及び特許権は、発明者である従業員のものとなる。ただし、発明に対する企業の貢献も大きいので、企業など使用者には発明を実施する権利(通常実施権)が認められる。実務上は、契約や職務規則などによって使用者に特許を受ける権利または特許権を譲るように定めているのが通常である。
鄱 特許出願の手続
特許出願に際しては、?願書、?発明内容を記載した明細書、?必要な図面、?発明の概要を記載した要約書、を提出する必要がある。
ただし?図面の提出は任意である。特許庁は、これらをパソコンで提出する「パソコン出願」を勤めている。
同一の発明について2つ以上の出願がなされた場合には、一番早い出願人が優先される(先願主義)。

(2)出願公開
鄯 出願公開制度
特許出願の内容は、出願日から1年6ヶ月経つことで自動的に「公開特許広報」に掲載され、公衆に公開される。これを出願公開制度という。出願公開制度は、第三者が重複して出願や開発投資をすることを防ぎ社会的な損失を減らすことを目的としている。また第三者に早期に新たな発明のための情報を提供するという効果もある。ただ出願内容の公開によって第三者に発明を事由に利用されてしまうと出願者に不利益となる。そこで出願者は、発明を利用した第三者に、一定の補償金の支払を請求できる。このような請求を早く得るために、出願人は早期の出資公開を請求できる。

(3)出願審査請求制度
出願審査請求制度とは、特許出願とは別に、出願から3年以内に、出願審査請求の手続をした者についてのみ審査を行う制度をいう。
これは、いわゆる防衛的出願など特許取得の意思がない出願の審査を省き、審査の効率を向上させることを目的としている。出願審査請求は、特許出願者に限らず、誰でも行える。

(4)審査
新規性などの特許要件を満たすか審査する。

(5)特許査定
拒絶理由がないと特許査定がなされる。

(6)特許料納付
特許権設定の登録を受ける者は、特許権の対価として、特許権を納付しなければならない。

(7)設定登録
特許権は、特許登録原簿に設定の登録をすることにより発生する。

(8)特許広報掲載
特許広報の発効日から6ヶ月の間は、第三者による特許異議の申立がなされる可能性がある。申立に理由があると判断されると特許が取消される。

4.実施権設定制度(1−28,2−56)
特許権は、発明を排他的独占的に利用できる権利がある。よって特許権を有しない第三者は、発明を利用できないのが原則である。ただ第三者が実施権を有する場合には例外的に特許発明を利用できる。実施権は、通常、特許権者と実施権間の設定契約(実施許諾契約)によって発生する、また、一般には、技術提携・技術指導などが行われる場合に、この実施許諾契約が締結される。実施権には、?専用実施権、?通常実施権、?独占的通常実施権といった種類がある。なお特許権者をライセンサー、実施検車をライセンシーと呼ぶ。

(1)専用実施権
専用実施権とは、特許発明を実施する権利を与えられた者(専用実施権者)が、契約で定めた範囲において、特許発明を独占排他的に実施することができる権利である。この権利は独占排他的なものなので、実施権設定後は特許権者も特許発明を実施できず、同一範囲について重ねて実施権を設定するものもできない。なお専用実施権は、特許庁に設定登録されることで発生する。

(2)通常実施権
通常実施権と専用実施権の大きな違いは、?実施権者(通常実施権者)に独占排他的な権利がないことと、?特許庁への設定登録を行わなくてもよいこと、である。
独占排他的な実施権でないので、特許権者は実施権設定後も特許発明を利用できるし、同一内容の実施権を重ねて設定することもできる。

(3)独占的通常実施権
独占的通常実施権とは、通常実施権の設定に際して、他社に対して同一内容の実施権を重ねて設定しない旨を合意した通常実施権をいう。法律上は通常実施権と同一なので?実施権者は独占排他的な実施権を有せず、?特許庁への登録も必要ない。

5.特許権の侵害に対する措置(1−29,2−57)
特許権者以外の者が正当な理由や権原を欠くのに特許発明を実施すると、独占排他権である特許権が侵害されたことになる。このような権利侵害については、民法に救済規定がある。しかし特許権は権利の客体が無体物であるという特殊性を有するため、有体物を予定している民法の救済規定では十分な救済がなされている可能性がある。そこで特許法は、特許権侵害に対する救済措置について特別な規定を置いている。

(1)民事的救済手段
民事的な救済手段としては、?差止請求、?仮処分の申立、?損害賠償請求、?不当利益返還請求、?信用回復措置の請求などがある。
そして特許権者の権利行使を容易にしその保護を図るために、侵害者に対する侵害様態の明示義務、損害額計算のための鑑定人制度の導入、裁判所による損害額の認定、損害賠償請求訴訟における損害額・過失の推定などの規定がある。

(2)刑事的な責任追及
特許権侵害には刑罰が科される。これによって特許権侵害行為が抑制され特許権者の保護に繋がる。

6.共同発明(1−30,2−58)
共同開発とは、2人以上の者が実質的に協力して発明を成立させることをいう。これは、開発費の抑制などの理由から企業同士が協力して商品を開発する場合などに行われる。発明は技術的思想の創作なので、共同発明者かどうかは創作活動に関与したかどうかという観点から判断される。
共同開発においては、特許を受ける権利・特許権が共同発明者の共有となる。たとえば共同で出願しなければ、拒絶される。また、持分の譲渡、実施権の設定などを行うには、他の共同発明者の同意が必要となるが、各共同者が自ら特許発明を実施する場合は、他の共有者の同意を得る必要はない。

【第三章 知的財産権 第1節 知的財産総説】

1.知的財産権とは(1−23,2−51)
知的財産権とは、特許権実用新案権、育成者権、意匠権著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利または法律上保護される利益に係る権利をいう。
これらのうち特許庁が管轄している特許権実用新案権意匠権、商標権を産業財産権という。
知的財産権は有体物に対する権利でも特定の人に対する権利でもないので、物権でも債権でもない第三の権利といわれている。

2.知的財産基本法(1−24,2−52)
知的財産権が社会において占める地位は次第に高まってきている。このような状況下でわが国の産業の国際競争力を強化するためには、知的財産の創造・保護及び活用を図る必要がある。そこで知的財産の創造・保護・活用を図るために、知的財産基本法が、知的財産戦略大綱に基づいて制定された。
知的財産基本法は、知的財産の創造、保護及び活用に関し、基本理念及びその実現を図るために基本となる事項を定め、国、地方公共団体、大学等及び事業者の債務を明らかにし、知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画の作成と知的財産戦略本部の設置により、知的財産の創造、保護及び活用に関する施策を集中的かつ計画的に推進することを目的としている。

【第二章 第5節:解散】

1.会社が役割を終えるとき
会社は、商法が定める一定の場合に解散する。ただ、解散したからといって会社の法人格が直ちに消滅するわけではない。解散した後も、債権を取り立てたり、債務を弁済したり、残りの財産を社員に分配したりといった後始末が必要になる。こうした清算の完了によって、法人格が消滅することになる。

2.解散と解散原因
解散とは、会社が営業活動をやめ、その人格の消滅をきたす状態に入ることをいう。

(1)解散原因
解散原因には次のようなものがある。このうち?〜?は株主の意思によるものといえ、?〜?は株主の意思によらない強制的解散といえる。
 ?定款に定めた解散事由の発生
 ?株主総会の特別決議
 ?会社の合併
 ?会社の破産
 ?裁判所の解散命令・会社解散判決
 ?休眠会社の整理
 ?特別法上の原

(2)清算
会社の法人格は、合併の場合を除き、解散によって直ちに消滅せず、既存の法律関係の処理のため、清算または破産の手続が終了するまでは、清算または破産の目的の範囲内で解散前の会社と同一の法人格を維持する。このような清算目的の会社を清算株式会社という。
清算とは、解散した会社につき、法律関係を整理し会社財産を換価・分配するための後始末をすることをいう。会社は法人であり、自然人における相続のような制度が認められないため、このような手続が必要になる。なお、清算の遂行に著しい支障をきたすような事情があるか、または債務超過の疑いがあるときは、裁判所の命令によって開始される特別清算の手続に入ることになる。

【第二章 第4節:資金調達】1.資金調達の方法

1.資金調達の方法(1−18,2−46)
会社を経営するには、運転資金、設備投資費や研究開発費等常に資金調達が問題となる。資金調達が問題となる。資金調達の方法としては、企業の業務活動の中から生まれる内部資金(会社の利潤等)を利用する方法と会社の外部から資金を調達する方法がある。
また、資金は、企業が返済する義務を負うか否かにより、自己資本(返済義務を負わない場合)と他人資本(返済義務を負う場合)に分けられる。株式の発行による払込金と内部資金は自己資本に、社債や借入金は他人資本にあたる。

2.募集株式の発行(1−19,2−47)
(1)募集株式の発行とは何か
学問上、株式会社の発行済株式総数が増加する場合を総称して新株発行という。新株発行のうち資金調達を直接の目的とし会社法199条以下の手続に従って行われるものを通常の新株発行と呼び、その他のもの(例えば、株式無償割当、吸収分割、株式交換等の場合における新株発行等)を特殊の新株発行と呼ぶ。
会社法は、前者の通常の新株発行とこれと同様の経済的効果を有する自己株式の処分とを併せて募集株式の発行等として、同一の規律に置くこととした。

(2)会社設立時の株式発行と成立後の株式発行との比較
募集株式の発行は、資金調達のために行われるものであるが、株主(社員)の増加、資本の増加を伴い、実質的にみると、会社の人的・物的規模が拡大する現象と捉えられ、あたかも会社の一部設立のような観を呈する。そして、会社設立時の株式発行と設立後の株式発行とでは、多くの共通点が見出せる。例えば、資本充実を図るための制度、具体的には、金銭出資の全額払込み・現物支給の全部給付、現物出資の調査等、現物出資者等の差額支払義務等が定められている点で共通する。
もっとも、会社設立時の株式発行と成立後の株式発行とでは、次の表に見られるような相違点もある。

(3)募集株式発行の方法
募集株式の発行は、割当てる相手方により、株主割当てとそれ以外の募集株式の発行に分けられる。
募集株式は、おおまかにいって、募集事項の決定、募集手続の通知、募集株式の申込み、募集株式の割当て、出資の履行という手続を経て発行される。そして、募集株式の引受人は、所定の払込期日・払込期間に出資の履行(金銭の払込・現物出資の給付
をすることにより、当該払込期日(払込期日を定めた場合)または当該履行をした日(払込期間を定めた場合)から株主となる。

(4)既存株式の保護
株主割当て以外の募集株式の発行手続では、既存株主は、?持分比率の低下により支配力が低下し、さらに?発行価格が時価を下回る有利発行がなされると、株価下落による経済的損失を被ることになる。
このような不利益を防止するため、非公開株式については、募集株式の発行等の際に、株主総会の特別決議を要求している。
他方、公開会社については、既存株主の経済的損失の面については、特に第三者に対する有利発行についてのみ、株主総会の特別決議を要求して既存株主の利益保護を図っている。これは、持分比率の低下については、株式譲渡自由の原則の下、市場で株式を調達して回復を図ることが可能だからである。

(5)違法・不公正な発行による株主の救済
違法・不公正な発行による株主の救済手段としては、会社法上、次のような手段がある。
鄯 募集株式の発行等差止請求権
会社が法令や定款に違反し、または、著しく不公正な方法により募集株式の発行・自己株式の処分をすることによって株主が不利益を受けるおそれがある場合、株主は、会社に対して募集株式の発行・自己株式の処分の差止めを請求することができる。違法・不公正な発行等により、損害を受ける株主の保護を図る制度である。
鄱 不公平な価格で引き受けた者の責任
取締役と通諜して、著しく不公正な払込価格で引き受けた者は、不公正な払込価格と公正な払込価格の差額を支払う義務を負う。
鄴 新株発行無効の訴え及び自己株式処分無効の訴え

3.新株予約権(1−20,2−48)
新株予約権とは、株式会社に対して行使することで当該会社の株式の交付を受けることができる権利をいう。
平成13年の商法改正によって新設され、従来の自己株式購入権(ストックオプション)は新株予約権に含まれ、さらに付与の対象者は会社の取締役または従業員以外にも拡大されることとなった。
新株予約権の発行は、公開会社では取締役会で、非公開会社では株主総会特別決議で決定する。ただし、公開会社においても、株主以外のものに対して特に有利な条件をもって新株予約権を発行するには株主総会特別決議が必要である。これは募集株式の有利発行と同様、既存株式の有利発行と同様、既存株主の保護を図った趣旨である。
また、会社法により、取得条項付新株予約権が規定された。これは、株式会社が、一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得できるとするもので、いわゆるポイズン・ピルとして敵対的買収に対する防衛策とすることもできる。

4.社債(1−21,2−49)
(1)社債
社債とは、会社法の規定により会社が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、会社法の定めに従い償還されるものをいう。
社債は公衆から長期・多額の資金を調達する手段として株式と共通している。しかし、株式が会社の社員たる地位であるのと異なり、社債の性質は会社に対する金銭債権にすぎない。したがって、社債は期限到来時に償還が予定され、また配当可能利益の有無に関わらず一定の利息を受け取ることができる。
なお、従来、有限会社は社債を発行できないと解されていたが、会社法は、株式会社のみならず、持分会社社債を発行できることとした。

(2)新株予約権社債
新株予約権社債とは、新株予約権を付した社債をいい、新株予約権と同様の手続により発行される。
新株予約権社債は、新株予約権社債とを分離して譲渡・質入をすることはできず、その発行は登記事項とされている。

(3)社債市場
社債は、かつては担保付社債が原則であったが、最近では優良企業は無担保の普通社債を発行することも認められており、また無記名社債が大部分を占めている。
この他に、金融機関の自己資本増強策に利用されている社債として劣後債がある。これは、上位債権者が自己に先立って債務の弁済を受けることを承諾する劣後特約を付した社債の総称である。会社法には劣後債に関する規定がないため、発行はすべて海外で行われる。普通社債よりコスト高であるというデメリットはあるが、行政当局の判断により自己資本として取り扱うことが可能であるというメリットもある。

5.その他の資金調達方法(1−22,2−50)
(1)コマーシャルペーパー
コマーシャルペーパー(CP)は、日本特有の企業が短期資金調達のため日本国内で発行する短期無担保の約束手形である。国内CPを発行するには、?期間が1年未満であること、?付利方式は割引方式とすること、?額面は1億円以上であること、のすべてを備える必要がある。また、これを発行できるのは優良企業(無担保普通社債発行適格企業及び一般担保付社債発行企業で上場しているもの)に限られる。
CPは発行企業が銀行・証券会社を通じて販売し、これを購入した投資家は、一般の約束手形と同様取引銀行に取引委任することができる。つまり、CPは、機能的には社債であるが、法的性格は約束手形といえる。
このようにCPは約束手形であることから、従来はその権利の発生・移転・行使には券面が必要とされ、そのために発行・保管・売買等に際してのコストとリスクが大きいとされていた。そこで、CPのペーパーレス化を図ること等を目的として「社債等の振替に関する法律」が施行された。
同法は、?契約により社債の総額が引き受けられるものであること、?各社債の金額が1億円を下回らないこと、?元本の償還について、社債の総額の払込のあった日から1年未満の日とする確定期限の定めがあり、かつ、分割払のの定めがないこと、?利息の支払期限を?の元本償還期限と同じ日とする旨の定めがあること、?担保付社債信託法の規定により担保が付されるものでないこと、という要件を満たすものを短期社債と定義しているが、この短期社債は、振替機関もしくは口座管理機関に解説される取引参加者が振替口座簿への記載・記録により、権利の発生・移転・行使の効果が発生する。CPも短期社債の要件を満たす形で発行されることがある。したがって、この要件をみたし短期社債に該当する限りで、券面を発行することなく、その権利の発生・移転・行使の効果を発生させることができる。

(2)金融機関等からの資金調達
委員会設置会社を除く取締役会設置会社においては、多額の借入には、取締役会決議が必要である。
金融機関等からの資金調達としては、当座貸越、預金担保借入、商業手形担保借入、商業手形割引、不動産担保借入等による短期・長期の借入金がある。
借入機関が1年以下の借入れの短期借入れといい、この場合は、金融機関を受取人とする約束手形を振出す方法によることが多いといえる。ただし、商業手形割引は、受取手形を金融機関に裏書譲渡する方法で行われる。また、借入機関が1年長の借入れは長期借入れといい、この場合は、金融機関との間で金銭消費借入契約を取り交わすことが多い。
また、売掛金の早期資金化のために売掛金債権をファクタリング会社に譲渡する譲渡債権も資金調達の一方法である。

【第2章 会社の運営】3.企業規模の拡大と企業統合

1.M&A(1−11,2−39)
M&A(mergers and acquistions)とは、狭義では、企業の買収と合併のことをいう。企業を効率化するために不要な事業部

門を売却し、また高い技術を持つ企業を買収して競争力を高める等、企業の活性化を図る手段として注目を集めている。
M&Aの手法としては、株式取得や事業譲渡により買収を図る形態、また2社以上を統合する合併がある。その他、業務提携の

補完としての株式の持ち合いや、共同して合弁会社を設立する等の形態も、広い意味でのM&Aに含めることがある。

2.株式の取得(1−12,2−40)株式取得は、他の会社を支配するためのもっとも協力な方法である。株式を取得するこ

とで、その会社を子会社化し、また強い影響力を行使することができるようになる。取得する株式の種類によっては、通常の株

式取得に比べてより強い影響力を行使することも可能である。
株式取得の方法としては、?既に発行されている株式を取得する場合と?新たに発行される株式を取得する場合とがある。

3.事業譲渡(1−13,2−41)
事業とは、一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の総体をいう。事業譲渡とは、この有機的一体

をなす財産を、一体として譲渡することである。また、その結果譲渡会社がその譲渡の限度に応じて競業避止義務を負う結果を

伴うものをいう。
企業は、事業譲渡によって、ほぼ合併と同様の効果をあげることができる。ただし、合併のように、相手企業の法人格を引き継

ぐことはなく、譲渡会社、譲受会社ともに別法人として存続する。
事業譲渡では、法人格が引き継がれないので、思わぬ簿外債務等を承継するリスクは低く抑えることができる。しかし、個々の

財産についていちいち移転の手続を要し、大きな手間がかかることになる。

4.合併(1−14,2−42)
(1)合併の意義
合併とは、2つ以上の会社が契約により1つの会社に合同することをいう。合併は、企業規模拡大のための最も効果的・効率的

な手段である。経済的には、経営の合理化や高い技術力を有する会社を吸収して競争力を強化するなどの目的で行われる。最近

では、金融機関などにおいて、救済のための合併が行われることもある。

(2)合併の種類と効果
合併には吸収合併と新設合併の2種類がある。
吸収合併とは、会社が他の会社とする合併で、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるも

のをいう。これに対し、新設合併とは、2つ以上の合併がする合併で、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により

設立する会社に承継させるものをいう。
合併では、当事者の全部または一方が解散し、それと同時に新会社の設立、または存続会社による募集株式の発行等が行われる

。解散会社の株主は、通常は新たに設立された会社または存続会社の株主となる。もっとも、合併の対価については従来、存続

会社等の株式を必ず交付しなければならないと解されてきたが、会社法で柔軟化が図られた。会社法では対価として、金銭・存

続会社の親会社の株式や持分に加え、子会社による親会社株式取得禁止の例外が認められたため、いわゆる三角合併が容易にな

った。また、解散会社の財産も当然に新たに設立された会社または存続会社に包括承継される。なお、解散会社には、解散によ

って直ちに消滅し、清算の手続を要しない。
企業規模が大きく異なる会社間や親会社間では吸収合併が選択されるのが一般であるが、企業規模が同じ程度の会社間であって

も吸収合併が行われることが多く、新設合併はあまり行われていない。これは、新設合併では、合併当事会社が有していた営業

許認可が新設会社に継承されず、上場会社が合併しても新設会社は別途新たに上場手続を採らなければならない等、費用・手間

がかかるためである。

5.親子会社(1−15,2−43)
会社法では、従来の「議決権の過半数」という形式的な基準に基づいて親子会社関係が認められる場合に加え、「財務・事業の

方針の決定を支配している場合」という実質的な基準により親子会社関係が認められる場合が定められた。また、従来、親会社

となるのは株式会社のみであり、子会社となるのは持株会社や組合等の事業体も親会社・子会社に含まれ得ることとなった。
なお、子会社の子会社であるいわゆる孫会社も会社法上は子会社に含まれる。
(1)親子会社の弊害防止のための規制
親子関係においては、親会社やその取締役の利益のみが重視され、他の利害関係人、特に子会社の株主や債権者等が害されるお

それが生じる。そこで、次のような親子関係の弊害防止のための規制を設けている。
鄯 親会社支配の公正を確保するための制度
 ・子会社による親会社株式の取得制度
 ・子会社が保有する親会社株式の議決権行使の制限
鄱 子会社を利用した粉飾決算等防止のための制度
 ・親会社株主の子会社に対する書類閲覧謄写請求権
 ・親会社の会計参与・監査役・会計監査人・監査委員会による子会社に対する報告請求権、調査権
 ・親会社の検査役による子会社の業務、財産状況の調査権
 ・親会社会計参与・監査役・会計監査人の子会社取締役、執行役及び使用人との兼任の禁止
 ・連結計算書類作成義務

(2)株式交換
株式交換とは、株式会社が発行済株式の全部を他の株式会社または合同会社に取得させることをいう。株式交換によっても完全

親子会社関係がもたらされるだけであり、消滅する会社はなく、各当事会社の財産も変動しない。
子会社となる会社の株主の側から見ると、事故の株敷居を親会社へ移転しその代わり親会社の株式を割り当てられることになり

、株式の交換がなされているようにみえる。
なお、事業譲渡の場合と同様、簡易手続・簡略手続の要件を満たす場合には、株主総会の特別決議は不要となる。
また、会社法では株式交換についても対価の柔軟化が認められたため、株式交換完全親会社の責任財産が変動する場合があると

して、一定の場合には会社債権者保護手続が要求されることになった。

(3)株式移転
株式移転とは、1つまたは2つ以上の株式会社が発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう。株式移

転によっても完全親子会社関係がもたらされるだけであり、消滅する会社はなく、各当事会社の財産も変動しない。
株式移転の手続は、株式交換の場合とほぼ同様である。

6.会社分割(1−16,2−44)
a 会社分割の種類
?新設分割と吸収分割
会社の分割方法には、新設分割と、吸収分割の2つの方法がある。
新設分割とは、1または2以上の株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割により設

立する会社に承継させることをいう。
新設分割は、複数の営業部門を有する会社が、各営業部門を独立した会社とすることにより、経営の効率性を向上させるために

利用することが見込まれる。
吸収分割とは、株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割後他の会社に承継させるこ

とをいう。この手法は、持株会社の下にある複数の子会社の重複する部門を、各子会社に集中させることにより、組織の再編成

を実現するために利用することが見込まれる。
?物的分割(分社型)と人的分割(分割型)
旧商法においては、新設分割と吸収分割のそれぞれについて、物的分割(分社型)と人的分割(分割型)が存在していた。会社

分割では、営業を承継する新設会社または承継会社が、承継する営業に見合った株式を発行する。その分割を分割会社に割り当

てる場合を物的分割、分割会社の株主に割り当てる場合を人的分割と呼んでいた。
しかし、対価柔軟化(組織再編行為を行う際に、株式以外の金銭等を対価として交付することが認められたこと)によって人的

分割についても財源規制を横断的にかける必要が生じたため、会社法は、改正前商法のいわゆる人的分割を「いわゆる物的分割

+剰余金の現金分割」という構成にし、法文上「人的分割」概念はなくなった。

7.企業提携(1−17,2−45)
企業提携には、株式の取得による資本的提携、合弁会社の設立、パートナーシップ、ライセンス供与等様々な形態があるが、い

ずれの場合も提携企業間では一方企業の相手方企業に対する全面的な支配関係は形成されないのが通常である。
企業提携に際しては、通常、提携業務内容に即した契約書が作成される。特に、外国の会社と契約を締結するときは、相手国の

法制度・法習慣及びビジネス行動の調査、経済変動の可能性の調査等を十分行い、契約条項の整備等によりリスクを極力回避す

る必要がある。また、業務提携契約の内容に関しては、独占禁止法外為法、その他関係国の法令に反しないようにしなければ

ならない。
なお、合弁会社の設立は、出資会社と合弁会社との間に資本関係を通じた親子会社関係あるいは関係会社関係(親子会社関係に

至らない程度の資本関係が構築される場合)が生じるが、合弁会社に対する支配力は、多くの場合、出資会社の出資比率によっ

て決まることになる。ただし、出資比率はその国の法律によって制約される場合がある。

【第2章 会社の運営】2.会社の計算

1.会社の計算(1−10,2−38)
計算関係(営業・財産状況の把握と損益の計算)においては、さまざまな利害が衝突する。すなわち、株式会社では、株主は利

配当請求権に基づき、より多くの配当を得ようとする。一方、会社債権者保護のためには、会社財産の流出を防止し、財務状

況を性格に把握してリスクを減少させる必要がある。さらに、会社経営者は、少しでも業績をよく見せようとする。こうした利

害衝突のなか、企業の財務処理を適切に行うのは、なかなか容易なことではない。そこで、会社法では、そうした利害を調整し

、適正な財務処理を図るため、さまざまな詳細な規定が定められている。
もちろん、会社の財産状況や、会社の財産状況や、会社の損益状況を明らかにすることは、会社の経営・発展にとっても重要な

意味を持っている。それは、自己が現在おかれた状況を把握することが、企業活動の基礎をなすといえるからである。
鄯 計算規定
計算規定は、?経営のための企業の財務状況の把握と開示、?債権者のための財務状況の開示、?剰余金の配当における配分可

能性の算定、という機能を担っている。
a 計算書類の作成手続
計算書類等は、取締役・執行役(会計参与設置会社においては取締役及び会計参与)が作成する。もっとも、実務上は取締役の

委任を受けた経理部長等が作成する。
作成された計算書類等は、監査役設置会社監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社

を含み、会計監査人設置会社を除く)においては、監査役の監査を受けなければならない。
会計監査人設置会社においては、?計算書類及びその付属明細書については監査役委員会設置会社においては監査委員会)及

び会計監査人の監査を受けなければならず、?事業報告及びその付属明細書については監査人(委員会設置会社においては監査

委員会)の監査を受けなければならないものとされている。
なお、取締役会設置会社においては、代表取締役が取締役会に提出し、その承認を受けなければならない。その上で、取締役が

計算書類等を定時株主総会に提出または提供して、原則としてその承認を受けなければならない。総会終了後、会社は遅滞なく

貸借対照表(大会社ではこれに加えて損益計算書)を公告しなければならない。
鄱 企業会計原則
計算書類は、会社法の規定に基づいて作成されなければならない。しかし、会計は複雑多岐な事項に渡り、すべてを会社法で定

めることはできない。そこで、会社法は、必要最小限度の事項についてのみ規定し、それ以外の事項については「一般に公正妥

当と認められる企業会計の慣行」に依拠するものとされている。
この公正なる会計慣行として第一に考慮すべきものとして、企業会計原則をあげることができる。企業会計原則は、会社法や税

法等で求められる信頼性ある会計実務の確立のために設定された企業会計処理基準であり、一般原則、損益計算書原則、貸借対

照表原則及び注解からなっている。
鄴計算書類と財務諸表
財務諸表とは、企業会計において、企業の財務内容や、損益の計算を把握し、利害関係人に公開するために作成される様々な書

類のことをいう。会社法上の概念である計算書類よりも若干広い概念であり、また、事業報告は含まれない。
鄽 情報開示
a 会社法上の情報開示規定
会社法上は、株主や債権者の利益を確保するために、次のような情報開示規定を定めている。
 ?取締役会設置会社における定時株主総会の召集通知への計算書類等の添付
 ?定時株主総会承認後の公告
 ?計算書類等の備置き・公示
 ?株主及び会計k債権者の会計帳簿閲覧権
b 連結計算書類制度
従来、旧監査特例法上の大会社であり、かつ証券取引に基づく有価証券報告書を財務局に提出している株式会社及び委員会設置

会社(みなし大会社である委員会等設置会社を除く)には、商法上も証券取引法上の連結財務諸表制度と同様の制度が導入され

ていた。
会社法も原則としてこれを承継し、会計監査人設置会社は、各事業年度にかかる連結計算書類を作成することができることとさ

れた。また、事業年度の末日において大会社であり、かつ証券取引法に基づく有価証券報告書内閣総理大臣に提出しなければ

ならない会社は、連結計算書類(連結貸借対照表連結損益計算書連結株主資本等変動計算書、連結注記表)の作成を義務付

けられた。