【第2章 会社の運営】2.剰余金の配当の要件

2.剰余金の配当の要件(1−9,2−37)
(1)剰余金の配当の形式的要件
従来、会社は決算期ごとに決算を行い、配当可能利益を算出し、利益処分案を作成し、取締役会の承認・定時株主総会における承認を受けて、利益配当を決定するものとされていた。これに対し、会社法では、利益配当は剰余金の配当として整理され、株主総会の普通決議によりいつでも株主に配当することができるものとされた。また、旧商法では認められなかった現物配当が認められ、これを行う際には株主総会の特別決議が必要とされることになった。
なお、剰余金の配当は、株主平等原則に従い、株主の有する株主の数に応じてなされるのが原則であるが、異なる種類の株式(配当優先株・劣後株、人的属性に基づき異なる取扱いを定款で定めた場合)は定めに応じて異なった扱いを受けるものとされた。
鄯一定の監査役会設置会社及び委員会等設置会社等における配当
取締役の任期を選任後最初の決算期に関する定時総会の終結の日以前までと定めている監査役会及び会計監査人が設置されている会社または委員会設置会社は、剰余金の配当を取締役会が決定することができる旨を定款で定めることができる。
これは、利益が存在している間にトラッキング・ストックや各種の株式について確実かつタイムリーに配当を行うためには取締役会に剰余金の配当権限を与えることに実益があり、剰余金の配当限度額は経営についての判断能力が必要とされるので、株主よりも取締役ができ忍であるという理由に基づくものである。
なお、かかる定款の定めが認められるのは取締役の任期が1年とされている会社に限定されているが、これによって、取締役の決定した剰余金配当の方針に反対の株主が取締役の不再任という形で自己の意思を反映しやすくなり、また、取締役会が厳しい監視に服することになる。
この点において、適切な配当が行われるよう、株主が取締役に対してコントロールを及ぼす機会が多く設けられているといえる。

(2)剰余金の配当の実質的要件
旧商法では、利益配当、中間配当、資本及び法定準備金の減少に伴う払戻し、自己株式の有償取得はそれぞれ別個の手続として規定され、上限額も異なっていたが、これらはいずれも会社の剰余金の払戻しであり、区別の実益は乏しいものであった。
そこで、会社法では、これらを「剰余金の配当等」として整理し、統一的に財源規制を設けた。剰余金の配当は分配可能額の範囲内で行うことが必要であり、分配する金銭等の帳簿価額の総額が分配可能額を超えてはならないとされている。
鄯 分配可能額の算出
分配可能額の算出は、以下のabの合計からc〜fの合計額を引いて行う。
a 剰余金の額
b 臨時計算書類につき承認を受けた場合における以下の額
 ?441条1項2号の期間の利益の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
 ?441条1項2号の期間内に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額
c 自己株式の帳簿価格
d 最終事業年度の末日後に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額
e bに規定する場合における441条1項2号の期間の損失の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
f c〜eのほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
鄱 剰余金
剰余金とは、以下のa〜dの合計額からe〜gの合計額を引いた額をいう
a 最終事業年度の末日における?及び?に掲げる額の合計額から?〜?までに掲げる額の合計額を減じて得た額
 ?資産の額
 ?自己株式の帳簿価格の合計
 ?負債の額
 ?資本金及び準備金の額の合計額
 ??及び?に掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
b 最終事業年度の末日後に自己株式の処分をした場合における当該自己株式の対価の額から当該自己株式の帳簿価格を控除して得た額
c 最終事業年度の末日後に資本金の額の減少をした場合における当該減少額
d 最終事業年度の末日後に準備金の額の減少をした場合における当該減少額
e 最終事業年度の末日後に自己株式の消却をした場合における当該自己株式の帳簿価格
f 最終事業年度の末日後に剰余金の配当をした場合における次に掲げる額の合計額
 ?配当財産の帳簿価格の総称
 ?金銭分配請求権を行使した株主に交付した金額の額の合計額
 ?基準未満株式の株式に支払った金銭の額の合計額
g e及びfに掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
また、最低資本金制度の廃止に伴って、純資産額による規制が新たに設けられ、純資産額が300万円以下の株式会社は、剰余金があっても株主に配当することはできないとされた。

(3)違法な剰余金の配当
形式的要件または実質的要件を欠く配当、あるいはその両方を欠く配当は、違法な剰余金の配当とされる。通常、違法な剰余金の配当という場合には後者を指す。
分配可能額を超えて行う剰余金の配当は無効であると解される。これは、資本維持という株式会社の基本的要請に反するためである。配当が無効となる以上、株主が得た利益は、法律上の原因を欠く不当利益となる。それゆえ、株主は会社に配当によって得た利益を返還しなければならない。
また、違法な剰余金の配当は、担保となるべき会社財産が流出することを意味する。これは、会社債権者にとって、特に重大な問題である。そこで、会社債権者は直接株主に対して違法分配額を自分に返還することを請求できるものとした。
ただ、多数の株主に違法分配額の返還を求めることは実際上困難なので、当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役・執行役等)及び株主総会・取締役会における議案提案取締役も会社に対して分配額を支払う義務が負わされている。ただ、職務執行者及び議案提案取締役の責任は過失責任であり、任務懈怠がなかったことを証明すれば義務を免れることになる。また、職務執行者及び議案提案取締役の義務は原則として免除することはできないが、総株主の同意があれば、行為時における分配可能額を限度としてその義務を免除することができる。
なお、違法配当金額を弁済した取締役等は、悪意の株主に対しては求償権を行使することができるが、善意の株主に対しては求償権を行使することができない。
剰余金の配当により期末に欠損を生じた場合、当該行為に関する職務を行った業務執行者は、その職務を行うにつき注意を怠らなかったことを証明しない限り、これを填補する義務を負う。この義務は総株主の同意がなければ免除することはできない。
このほか、取締役・執行役については第三者に対する責任も生じ得る。これは、会計参与、監査役、会計監査人についても同様で、その任務を行った場合には、会社に対する責任も生じ得る。
鄯 蛸配分
分配可能額を超えて配当することは、自分の財産を食いつぶして生き続けることであり、あたかもタコが自分の足を食べながら生きるさまになぞらえることができる。そこで、そのような配当を俗に「蛸配当」と表現することがある。蛸配当は、見かけ上の信用を維持し、金融機関からの資金調達を容易にするため、経理を不正に操作して利益金額を実際より大きく見せる粉飾決算とともに行われることが多いといえる。

(4)中間配当
取締役会設置会社は、1事業年度の途中において1回に限り取締役会の決議によって剰余金の配当(配当財産が金銭であるものに限る)をすることができる旨を定款で定めることができる。これを中間配当という。
順来、利益配当は、決算期ごとの手続を踏んで損益を確定しないと実施できず、その結果、実施できるのは年1回に限られていた。ただ、定款に定めのある場合に限り、中間配当をすることが認められていた。これに対し、会社法では、剰余金の配当は年1回に限られないこととされた。とすると、中間配当制度は不要になったとも思われるが、取締役会設置会社においては剰余金の配当の要件を緩和するものととして存続することとなった。その要件は次の通りである。
?1事業年度の途中において1回に限りであること
?配当財産が金銭であること
?配当財源が存続すること(中間配当も剰余金の配当であり、統一的な財源規制の下で行われる)
?取締役会設置会社において、取締役会決議により剰余金配当ができる旨の定款の規定があること
?取締役会決議で中間配当事項を定めること
配当財源がないのに中間配当をした場合の取締役等の責任は、違法配当の場合と同様である。

(5)建設利益の配当
従来は認められていた建設利息の制度(鉄道・水力発電・運河等、営業施設の建設に長時間を要する事業について利益がなくても配当を認める制度)は廃止された。これは、建設利益の配当は出資の払戻しないし利益の前払いにすぎず、会社債権者を害するおそれがあること、資金減少により剰余金を生じさせ、配当を行うという会社法で新たに認められた制度によっても同様の効果が得られることに基づく。

(6)株式の分配
株主への利益還元策としては、金銭による配当のほかに株式の分割がある。株式分割には、?単純に現在の1株を整数倍に分割する方法と、?剰余金を資本に組み入れ、かつ当該資本組入額を引当てとして新株を発行する方法がある。?の方法は、本来の株式の分割とは分離され、資本金の額の増加として位置づけれている。
株式の分割は、株主にとっては、分割された株式を市場で売却してして現金に換えることができるというメリットは、会社にとっては、株式取引の活発化を期待できるほか、?の場合においては、金銭の社外流出を避け、かつ資本組入れ額分だけ資本が増加するというメリットがある。
なお、株式の分割により発行済株式総数が増加するため、定款変更により発行済み株式総数を増加しなければならない場合が生じる。この場合には、株主の持分比率をぞうかしなければならない場合が生じる。この場合には、株主の持分比率を維持するため、2種類以上の株式を発行している会社を除き、株主総会の特別決議によらずに発行可能株式総数を増加する定款変更が認められている。

【第2章 会社の運営】1.配当

1.配当(1−8,2−36)
会社は営利社団法人とされる。営利とは、対外的に利潤を追求し、そこで得た利潤を株主に配当することを意味する。剰余金の配当は、株式会社の本質的要請である。そもそも、出資者たる株主は、配当を目的として会社に参加したと考えられるので、株主が剰余金配当を受ける権利は、株主の権利のなかでももっとも基本的なものであり、株主自身の同意が無ければ奪うことができない固有件の1つである。

【第2節:株式会社のしくみ】4.会社の機関

4.会社の機関(1−7,2−35)
(1)会社を経営する人
株式会社において、所有と経営が分離され、取締役等の専門家に経営が委ねられているのは、?株主が多数に及び、かつ常に変

動し得るので事実上経営に従事することができない、?株主に必ずしも経営能力が備わるわけでなく専門家に委ねるのが合理的

である、という理由に基づく。
なお、会社法の制定に伴い、株式会社の機関については、次のようなルールの下、原則として柔軟に設計することが可能となっ

た。
?すべての株式会社には、株主総会のほか、取締役を設置しなければならない。
?公開会社以外の会社では、取締役の設置は任意であり、取締役会を設置する場合には、監査役監査役会)または委員会のい

ずれかを設置しなければならない。ただし、公開会社でない会計参与設置会社は監査役を置くことなく取締役会を設置するには

、取締役会を設置しなければならない。
?会計監査人を設置する場合には、監査役監査役会)または委員会のいずれかを設置しなければならない。逆に、委員会を設

置するには、会計監査人を設置しなければならない。なお、監査役監査役会)と委員会を同時に設置することはできない。
?会計参与は、すべての会社において任意に設置することができる。さらに、当該会社が、公開会社であるか否か、あるいは大

会社であるか否かにより、以下の通り、選択し得る機関設計が制限されている。
 ・公開会社は取締役会を設置しなければならない。
 ・大会社は会計監査人を設置しなければならない。
 ・公開会社である大会社は監査役会または委員会のいずれか設置しなければならない。
鄯 取締役会
a 取締役とは
従来、取締役は取締役会の構成員として、会社員の業務執行の意思決定、取締役の職務執行の監督をする者であり、取締役はそ

れ自身としては会社の機関ではなかった。
しかし、会社法は取締役会の設置を任意としたため、取締役会設置会社以外の会社では、原則として、取締役が各々会社の業務

執行権および代表権を有することになった。また、取締役会設置会社以外の会社では、その員数についても制限がなく、1人で

も足りることになった。なお、取締役会設置会社における取締役の役割および員数は、原則として従来通りとなっている。
取締役は、会社の機密を知り、また業務について幅広い権限を有している。そのため、取締役がその地位・権限を濫用すると、

会社は大きな損失を被りかねない。そのような事態を防止するために、取締役には、次のような義務が課されている。
?善管注意義務・忠実義務
取締役は、任用契約上、善管注意義務を負っている。会社法はこれを「忠実義務(忠実にその職務を遂行する義務)」と表現し

ている。こうした義務が課される実際的なメリットは、もしこの義務に反する濫用行為があれば、会社が取締役に債務不履行

任を追及し、また法令違反行為として損害賠償を請求することができる点にある。
?競業避止義務
取締役が行う競業については、その危険性から特別な規制がなされている。すなわち、取締役が競業を行うときは、事前に情報

を開示し、株主総会の承認(取締役会設置会社においては、取締役会の承認)を得なければならない。業務の知識・ノウハウに

通じた取締役が、会社の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図ることを防止する趣旨である。
取締役が上記の承認を得ずに競業取引を行った場合でも、取引行為自体は無効とならないが、当該取締役は、法令違反行為を行

ったものとして、会社に対して損害賠償義務を負担することになり、当該取引により取締役または第三者が得た利益の額が会社

の損害額と推定される。
?利益相反取引
取締役が会社との間で行う自己取引や、会社と第三者の取引のうち会社と取締役間で利益が相反する取引(間接取引)を利益相

反取引といい、この取引を行う場合、株主総会の承認(取締役会設置会社においては取締役会の承認)が必要とされる。こうし

利益相反取引も、取締役が会社の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図ることを防止しようとする趣旨の規定である


対象となる取引は、会社と取締役との利害が相反氏、会社に不利益を与えるおそれがある取引を広く含む。例えば、取締役が自

ら当事者として会社から財産を譲り受けたり、会社に財産を有償で譲渡したり、会社が取締役の債務を免除したりする行為が典

型的である(自己取引・直接取引)。会社と取締役以外の第三者との間で取引がなされるものの、実質的に見て利益相反がある

場合についても(間接取引の場合)、この規制の対象となる。
取締役会の承認を得ていない利益相反取引は、会社との間では無効である。そうすることが、会社にとって端的な救済となるか

らである。ただし、間接取引のように第三者が関与する場合には、第三者が不測の損害を被らないように配慮しなければならな

い。そこで、第三者が承認のない取引であると知っていた場合に限り、無効になるものと考えられている。
なお、利益相反取引により会社に損害が生じた場合、利益相反取引を行った取締役、株式会社が当該取引をすることを決定した

取締役、および当該取引に関する取締役会の承認決議に賛成した取締役は任務を怠ったものと推定され、会社に対して任務懈怠

に基づく損害賠償責任を負う。もっとも、法令または定款に違反する行為の取締役の責任であって、違反につき、その者が善意

かつ無重過失であるものは、株主総会主導の方法または取締役会主導の方法により、その取締役の責任を免除することができる

鄱 取締役会
a 取締役会とは
従来、株式会社には株主総会で選任される取締役の全員で構成される取締役会が必要的機関とされ、取締役会は合議により会社

の業務執行に関する意思決定を行い、取締役の職務執行を監督する役割を担っていた。会社法制定により、取締役会の設置は原

則として任意とされたが、取締役会設置会社における取締役会は、基本的に旧商法下の取締役会と同様の役割を担っている。取

締役会設置の趣旨は、討論を通じた相互牽制・相互監視によって、よりよい経営がなされるようにする点にある。
b 取締役会の決議事項
 ○重要な財産の処分および譲受け
 ○多額の借財
 ○支配人その他の重要な使用人の選任・解任
 ○支店その他の重要な組織の設置・変更・廃止
 ○業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
 ○定款に株式譲渡制限がある場合の譲渡の承認および承認拒否に伴う買受人の指定
 ○募集株式の発行
 ○株式の分割
 ○代表取締役の選定・解職
 ○取締役の競業取引の承認
 ○取締役の利益相反取引の承認
 ○新株予約権の発行
 ○計算書類の承認
 ○社債の発行
 ○一定の場合における資本金・準備金の額の減少
c 取締役会の形骸化とその対策
実際には、法の建前は、現状と齟齬をきたし、取締役会の形骸化が指摘されている。形骸化の原因には、業務の多角化・専門家

の進行、取締役の人数の増加などによって、実質的な討論が困難となったことがあげられる。
このような取締役会の機能不全は、コーポレートガバナンスに大きな悪影響を与える。そこで、いかに取締役会の昨日を回復す

るかが重要な問題となる。
取締役会の機能回復手段として、これまで社外取締役執行役員制度の活躍が提案されてきた。近年の商法改正ひいては会社法

制定は、企業のコーポレートガバナンスの実現を図ろうとするこうした動きに呼応するものだということができる。
?執行役員制度
わが国では、平成9年にソニーが初めて導入した。38人の取締役を10人に大幅削減して、新たに執行役員というポストを設

け、取締役会は戦略的意思決定と経営監視機能を担い、執行役員が業務執行を担うこととした。これは、委員会設置会社におけ

る執行役制度とは異なるが、経営の分業化と効率化を図る点で同様の趣旨に基づいている。
?常務会(専務会・経営会議等)
大企業においては、取締役の一部を構成員として、常務会・専務会・経営会議などと呼ばれる会議体が、取締役会とは別におか

れていることがある。これらの会議体は、機能不全に陥った取締役会の昨日について、事実上、代替するものである。しかし、

これには何ら法的な根拠は無く、取締役会の権限事項については、あらためて取締役会を召集し、決議する必要がある。
?特別取締役
特別取締役とは、重要な財産の処分および譲受けまたは多額の借財に関する決定を行うため、あらかじめ選定された取締役のこ

とをいう。これは、一定規模以上の大会社が、一定の事項に関して機動的に会社の意思決定を行えるようにする趣旨であった旧

監査特例法上の重要財産委員会制度を再構成したものであり、常務会等の役割の重要な一部が法制化されたものといえる。
特別取締役制度では、重要財産委員会制度と異なり、会社の規模要件は設けられておらず、取締役の人数が6人以上であって、

かつそのうち1人以上が社外取締役であればよい。そして、重要な財産の処分および譲受けまたは多額の借財についての取締役

会決議は、あらかじめ選定された3名以上の特別取締役のうち、議決に加わることができるものの過半数が出席したとき、その

過半数をもってすることができる。
鄴 代表取締役
代表取締役は、会社を代表しかつ会社の業務執行を行う独任制の機関である。取締役会の設置が任意とされたため、代表取締役

の設置も任意とされた。
代表取締役は、取締役会における決定に基づき業務を執行し、会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をなす権限

を有する。代表取締役の権限を一部制限することも可能であるが、この制限は善意の第三者に対抗することができない。
鄽 会計参与
a 会計参与とは
会計参与制度とは、公認会計士または税理士の資格を有する者が会社の機関として取締役等と共同して計算書類を作成する制度

をいう。この制度は、会社法制度に伴い、計算の適正を確保するために新設されたものである。会計参与は、すべての株式会社

で任意に設置することができる会社の機関であり、会社の役員である。したがって、取締役に準じた選任、任期や責任等が規定

されている。
b 会計参与の職務権限・義務
 ○計算書類の取締役等との共同作成
 ○会計帳簿・資料の閲覧・謄写権
 ○会社・子会社の業務及び財産の状況の調査権
 ○株主総会における意見陳述権
 ○会計参与報告の作成義務
 ○報告義務
 ○計算書類の備蓄義務
酈 監査役
会社法では、企業規模に応じて機関設計を柔軟に選択できるようになったため、株式会社でも独立した監査機関を有するものと

、そうでないものの2種類が存在し得ることとなった。
a 監査役とは
監査役とは、取締役の職務の執行を監査する独任制の機関をいう。監査役株主総会によって選任され、取締役会・代表取締役

から独立した立場で、常時、常務執行を監査する。監査役については、原則として任意に設置することができるが、設置するこ

とができるが、設置を強制される場合がある。
b 監査役の職務権限・義務
監査役は取締役の職務執行を業務及び会計の両面にわたって監査する(業務監査と会計監査)。監査は、取締役の業務執行が法

令・定款に違反するかという適法性監査であり、会社の経営にとって妥当かどうかという妥当性監査を行うことはできないと解

されている。なぜなら、監査役は業務執行の決定や執行に関与しないため妥当性について判断する能力に欠けるからである。ま

た、妥当性監査は経営判断に干渉することになり、監査の独立性を失われる可能性もあるからである。具体的には、監査役は次

のような権限・義務を有する。
?事業報告請求権・業務財産調査権
監査役は取締役及び会計参与ならびに支配人その他の使用人に対して、事業の報告を求めることができる。また、会計の業務及

び財産の状況を調査することができる。
?子会社に対する事業報告請求権・業務財産調査権
監査役は、職務を行うため必要があるときは子会社に対して事業の報告を求め、またその業務及び財産の状況を調査することが

できる。
?違法行為差止請求権
取締役が法令もしくは定款に違反する行為を行い、またはこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって会

社に著しい損害が生じるおそれがあるときは、監査役は取締役に対し、その行為をやめることを請求することができる。
?意見陳述権
監査役は、株主総会において、監査役の選任もしくは解任または辞任について、意見を述べることができる。
?株主総会に提出する議案や書類等の調査・報告義務
監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案等を調査しなければならない。この場合、法令もしくは定款に違反し、ま

たは著しく不当な事項があると認めるときは、株主総会にその調査結果を報告しなければならない。
?報告義務
監査役は、取締役が不正行為を行う、もしくは当該行為をするおそれがあるとき、または法令・定款に違反する事実もしくは著

しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく取締役(取締役会設置会社にあっては取締役会)に報告する義務がある。
?取締役会出席義務・意見陳述義務・取締役会招集請求権
監査役は、取締役会に出席する義務があり、必要があると認めるときは取締役会で意見を述べる義務がある。さらに、必要ある

と認めるときは、取締役会の招集を請求することができる。
酛 監査役会
a 監査役会とは
監査役会は、3人以上の監査役のすべてで構成され、その半数以上は社外監査役でなければならない。従来は、旧監査特例法上

の大会社についてのみ規定されていたが、会社法下では、大会社(公開会社でないものおよび委員会設置会社を除く)において

監査役会の設置が強制されるとともに、それ以外の会社においても任意に設置できるようになった。
b 監査役会の職務
監査役会は、?監査報告の作成、?常勤の監査役の選定及び解職、?監査の方針、監査役設置会社の業務および財産の状況の調

査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定、といった職務を行う。また、監査役に対して、いつでもその職務の

執行の状況の報告を求めることもできる。
醃 会計監査人
a 会計監査人とは
会計監査人とは、計算書類およびその付属明細書・臨時計算書類・連結計算書類の監査を職務とする者をいう。従来、旧監査特

例法上の大会社についてのみ規定されていたが、会社法下では、大会社に会計監査人の設置が強制されるとともに、それ以外
の会社においても任意に設置することができるようになった。
大会社以外の会社でも会計監査人を設置することができるようになったのは、例えば、ベンチャー企業が外部から資金調達を行

うために、外部の専門家による監査を受けることによって計算書類の適正さを表明したい場合等があるからである。
会計監査人は、公認会計士または監査法人の中から、株主総会の決議によって選任される。
b 会計監査人の職務権限・義務
会計監査人の職務権限は、その性質上、会計監査に限られている。そして、具体的な職務権限・義務は次の通りである。
?監査権限
会計監査人は、株式会社の計算書類およびその付属明細書、臨時計算書類ならびに連結計算書類を監査することができる。
?会計帳簿・資料等の閲覧・謄写権や報告請求権
会計監査人は、会計帳簿・資料等の閲覧・謄写をしたり、取締役および会計参与並びに支配人その他の使用人に対し、会計に関

する報告を求めたりすることができる。
?子会社に対する報告請求権や調査権
会計監査人は、会計監査人設置会社の子会社に対して会計に関する報告を求めたり、会計監査人設置会社もしくはその子会社の

業務および財産の状況の調査をすることができる。
?株主総会への出席・意見陳述権
会計監査人は、会計監査人の選任、解任もしくは不再任または辞任について、株主総会に出席して意見を述べることができる。

また、計算書類等が法令または定款に適合するかどうかについて会計監査人が監査役と意見を異にする場合も同様。
?会計監査報告作成義務
会計監査人は、計算書類等を監査した場合、会計監査報告の作成義務がある。
?報告義務
会計監査人は、職務を行うに際して取締役の職務の執行に関し不正の行為または法令もしくは定款に違反する重大な事実がある

ことを発見したときは、遅滞なく、監査役に報告する義務がある。
醞 委員会設置会社
委員会設置会社は、執行役に業務執行権限を大幅に委譲して経営の合理化・迅速化を図るとともに、取締役会による業務執行監

督を強化するという目的の下、監査役を置かない会社形態として、平成14年度の旧監査特例法改正で導入され、これが会社法

にも継承されている。従来は、大会社にのみその設置が認められていたが、会社法下では、任意に設置することができる。
委員会設置会社では、意思決定・経営監視機能と業務執行が明確に区分されている。
a 委員会設置会社のしくみ
委員会設置会社には、指名委員会、監査委員会、報酬委員会という3つの委員会と、1人または2人以上の執行役が置かれる。

なお、委員会設置会社においては会計監査人を置かなければならず、監査役・特別取締役を置くことはできない。
委員会設置会社では、取締役に業務執行権がない。そのため、代表取締役も存在しないことになる。その代わり、執行役と呼ば

れる者が業務執行を担う。また、対外的には代表執行役が会社を代表する。代表執行役は、これまでの代表取締役に対応する。
ただ、取締役と執行役の兼任は否定されていないことから、意思決定・経営監視機能と業務執行が完全に分離されない場合もあ

りうる。委員会設置会社における取締役会は、委員会設置会社の業務執行の決定や執行役等の職務執行の監督といった職務を行

う。また、各委員会の委員の選定、執行役の選任も行う。
もっとも、すべての業務に関する事項を取締役会で決定するのは、迅速な意思決定を阻害するので、法の定める基本事項を除き

、執行役に業務執行の決定を委任することができる。法の定める基本事項には、競業取引・利益相反取引の承認や各委員会の委

員の選定・解職、執行役の選任・解任等がある。
b 各委員会
委員会設置会社においては、指名委員会、会社委員会、報酬委員会の3つの委員会を置かなければならない。
これらの委員会は、それぞれ3人以上の取締役によって組織され、委員は取締役会の決議で選定される。また、各委員会の委員

過半数社外取締役でなければならない。
?指名委員会
指名委員会とは、株主総会に上程する取締役および会計参与の選任および解任に関する議案の内容を決定する機関である。
?監査委員会
監査委員会とは、取締役および執行役ならびに会計参与の職務執行の監査および監査報告の作成をし、会計監査人の選任、解任

または不再任議案の内容を決定する機関である。監査委員は、他の委員と異なり、委員会設置会社もしくはその子会社の執行役

もしくは業務執行取締役または委員会設置会社の子会社の会計参与もしくは支配人その他の使用人を兼ねることができない。
監査委員会を構成する取締役(監査委員)は、次の職務を行う。その内容は、通常の株式会社における監査役の職務と類似して

いる。
 ・職務執行の報告請求権や業務・財産調査権
 ・子会社に対する事業報告請求権や業務・財産調査権
 ・執行役等の違法行為に対する差止請求権
 ・会社・取締役間の訴訟における代表権
 ・取締役会への報告義務
?報酬委員会
報酬委員会とは、取締役および執行役並びに会計参与が受ける個人別の報酬(執行役が使用人を兼ねている場合の使用人として
の報酬も含む)を決定する機関がある。
c 執行役
執行役とは、取締役会により委任された会社の業務執行を決定し、会社の業務を執行する機関である。執行役は、取締役会にお

いて選任され、取締役との兼任も可能である。
取締役は業務執行の権限を有さないので、取締役の地位にある者が業務執行に携わるには、執行役との兼任が必要になる。

【第2節:株式会社のしくみ】3.株主と株主総会

3.株主と株主総会(1−6,2−34)
(1)株主総会とは
株主総会は、株主によって構成される会社の最高機関である。すべての株式会社は株主総会を設置する必要がある。
従来は株主総会の決議事項は、会社・株主によって重要かつ根本的な事項に限られていた。それは、経営に関する実行は、専門家である取締役に委ねたほうが、結果的に株主の利益になるからである。しかし、わが国では、対外的な信用等の面から、企業の規模に限らず株式会社形態が圧倒的に多く選択され、多くの場合、法の予定する企業形態と現実の企業形態との間に齟齬が生じていた。
そこで、会社法ではこれを解消すべく、株式会社と有限会社を統合し、1つの会社類型とした。そして、取締役会設置会社において株主総会で決定できる事項は従来通り会社の基本的事項(会社法に規定する事項および定款で定めた事項)に限定しつつ、取締役会非設置会社における株主総会は、その権限に制限がない万能機関とされた。
なお、会社法の規定により株主総会の決議事項とされているものについては、その決定を取締役会等の機関に一任することはできない。株主総会において重要な事項を決定したうえで、具体的事項を取締役等に委任することが認められるのみで、仮に定款でそのような定めをしても、その定款の定めは無効である。
これに対して、取締役会設置会社において、会社法上、取締役会の決議事項とされているものを定款で株主総会の決議事項とすることは、原則として可能である。

(2)株主の議決権
鄯 一株一議決権の原則
株主は、一株(単元株制度を利用する会社においては一単元)につき一議決権を有する(一株一議決権の原則)。これは株主平等原則の議決権の面への表れである。
ただし、単元未満株式、議決権制限株式や会社の有する自己株式等の例外がある。
鄱 議決権の行使方法に関する問題点
株主の議決権行使は、株主が経営に参加できるほとんど唯一の機会であり、取締役の業務執行を直接監督できる数少ない機会の1つである。そこで、株主の議決権行使は、できるだけ尊重される必要がある。
ただし、事務負担の軽減という会社全体の利益のため、また株主権を濫用して会社に損害を与える総会屋に対処するため、一定の限度がある。

(3)株主総会の招集と進行
鄯 召集権者
株主総会の召集は、原則として取締役(取締役会設置会社においては取締役会)が決定し、召集権社である(代表)取締役がこれを執行して召集する。
また、6ヶ月以上前から会社の総株主の議決権の100分の3以上を有する株主は、取締役に総会の招集を請求することができる。この場合、まず取締役に召集を請求し、召集手続がとられないときには、裁判所の許可を得て自ら召集することができる。その趣旨は、株式の利益を確保するため会社の経営に参加することを認めるべき点にあるが、その株主総会にかかる費用は、株主の負担となる。
鄱 召集の時期及び場所
定時株主総会は、毎年少なくとも1回、一定の時期に召集することを要する。また、臨時総会は、臨時の必要があるときに召集される。
鄴 召集通知
召集通知は、会日(開催日)より2週間前までに発送しなければならない。召集通知には、会議の目的たる事項(議題)のほか、重要事項については議決権の行使について参考となると認められる事項を記載する。また、定時総会の召集通知には、貸借対照表損益計算書等の計算書類を添付する。これらは、株主に一定の標準期間を与え、総会の議事を活性化しようとする趣旨である。
鄽 株主の提案権
本来、株主総会における議事内容は、取締役会で決定される。ただし、多数派株式の利益に偏ることを防止するため、少数株主にも、株主総会における議題及び議案を追加提出する権利(株主提案権)が認められている。
株主提案権には、?一定事項を株主総会の会議の目的とすることを請求する権利、?株主総会の目的である事項につき議案を提出する権利、?当該株主が提出しようとする要領を株主に通知することを求める権利がある。
株主提案権のうち?は、取締役会設置の有無にかかわらず単独株主権であるが、?および?は、取締役会設置会社においては、少数株主権であり、その要件は6ヶ月以上前から(当該会社が公開会社でない場合は不要)そう株主の議決権の100分の1以上、または300個以上の議決権を有する株主であることである。議題・議案提案権の行使期間は、総会の8週間前までである(平成16年改正により、従来の6週間から8週間に拡張され、会社法もこれを継承)。
これにより、株主は、一定の事項を株主総会の会議の目的とすべきことおよびその事項を召集通知に記載・記録すべきことを請求できることになった。もちろん、そもそも株主総会で決議できない事項について提案することはできない。

(4)議事と決議方法
鄯 議事の方法
議事の方法は、定款の定めまたは慣習による。ただし、議事については議事録の作成が義務付けられている。
議長は、定款に定められなければ総会で選任する。議長は総会の秩序を維持し、議事を整理する職務権限を有し、議長の命に従わないものその他総会の秩序を乱すものを退場させることができる。
鄱 決議方法
株式総会で議決できるのは提案された議案についてのみである。株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し(定足数)、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行われるのが原則である。この定足数および決議要件については、定款で別段の定めを設けることができる。一部の大会社は、定足数をみたすことが困難であるため、定足数を排除する旨が定款で定められている。株主総会で決議される事項は上記の原則が適用されるもの(普通決議)のほか、これを加重した定足数・決議要件が定められている事項がある(特別決議事項、特殊決議事項)。
特別決議とは、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の多数をもって決議すること(ただし、定足数に対しては、定款で3分の1以上の割合を定めた場合はその割合以上、決議要件については定款で過半数を上回る割合を定めた場合はその割合以上)が必要な事項をいう。株主総会で議決する事項のうち、定款変更の場合のように、株主の立場からみて重要度が高い事項は特別決議事項とされている。
特別決議に比べて、株主にとっての重要性がより大きい事項は特殊決議事項とされ、より一層厳格な条件が定められている。特殊決議事項には、?発行する全部の株式を譲渡制限株式とする定款の定めを設ける変更を行うこと、?合併または株主交換をする株式会社が公開会社であり、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する対価の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合の、消滅株式会社等における吸収合併契約等の承認、?合併または株式移転をする株式会社が公開会社であり、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する対価の全部または一部が譲渡制限株式等である場合の、消滅株式会社等における新設合併契約等の承認、がある。
特殊決議事項は、議決権を行使することのできる株主の過半数以上であって、当該株主の議決権の3分の2以上と多数をもって決議することが必要である。定款によってこれらの要件を加重することも認められる。
株主平等原則の例外に関する定款の定めについて定款の変更を行う場合は(当該定款の定めを廃止する場合を除く)、総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上の多数をもって決議することが必要である。また、定款によってこれらの要件を加重することも認められる。

(5)株主総会活性化と総会屋の排除
a 株主総会の活性化
株主総会が今日のように形骸化したのは、株主の経営への無関心や会社の株主軽視の姿勢が主な原因とされている。これは、株主が単に経済的利益を得る目的に過ぎず、経営の意思も能力も有していないことが大きな原因である。さらに、わが国の上場会社の株主総会の開催日が6月下旬に集中し、株主が総会に参加しにくい状況が生じていることがさらにそれを加速されている。しかし、株主総会が、会社経営の適正を図るうえで重要な機能を有するものである以上、いかにその活性化を図るかが問題となる。
これについて近年、株主総会を投資家に向けられた広報活動(IR活動)の場として活用する動きがある。こうした動きは、形骸化した株主総会を活性化させようという試みの1つとして評価することができる。
また、最近の機関投資家による自己の利益を守るための投票行動も無視し得ない動きである。
b 総会屋
総会屋とは、議場を混乱させて議事の進行を妨害する等の行為によって、自己の存在をその会社に認識させ、威迫を用いて金品を要求したり(野党総会屋)、会社経営の側に立って、株主の質問等を妨害し、経営者から報酬を受け取ったりして(与党総会屋)、会社に規制する者をいう。こうした者と関係を持つのは、結託する暴力団の資金源となったり、企業のブランドイメージを極度に損なったりと、社会にとっても企業にとっても何もよいことはない。また、わが国企業の株主総会を形骸化させた大きな要因とも言われている。
そこで、会社法は、総会屋に限らず、何人に対しても株主の権利行使に関し、当該株式会社の計算において、財産上の利益を供与してはならないと規定した。財産上の利益の供与には正当な対価を授受する取引も含まれ、子会社の計算において利益を供与することも禁止される。これに違反して利益を供与したときは、これに関与した取締役等は連帯して供与した利益の価格に相当する額を会社に対して支払う責任を負う。また、利益の供与を受けた者はこれを会社に返還する義務を負う。この責任について、従来は取締役の責任は無過失責任だとされてきたが、当該利益供与をした取締役を除き、過失責任とされるようになった。
さらに、株主の権利の行使に関し当該株式会社またはその子会社の計算において財産上の利益を供与したときは、これに加担した取締役・監査役等の役員、支配人その他の使用人、および利益を受けた総会屋に刑罰を科している。以前は法定刑が「6月以下の懲役又は30万円以下の罰金」ときわめて軽かったため刑罰の抑止効果が十分でないとの批判があった。これを受けて、平成9年の改正で「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」に引き上げられ、これが現在の会社法に引き継がれている。

【第2節:株式会社のしくみ】2.株式

2.株式(1−5,2−33)
(1)株式とは
株式とは、株式会社における社員の地位を表現する言葉である。この地位を所有する者を株主と呼ぶ。株式は、細分化された均一的な割合的単位であるため、株式は、出資額に応じて複数の株式を持つことになる(持分複数主義)。この点は、社員が出資の額に応じて大きさの異なる1個の地位を有する持分会社と異なる(持分単一主義)。
かつて、株式には、額面株式と無額面株式があった。しかし、額面株式が廃止され、現在では、無額面株式に一本化されている。さらに、会社法の制定により端株制度が廃止され、単元株制度へ一本化されたことにより、株式は一株未満にさらに細分化することができなくなった。
鄯 株式の義務と権利
a 株式の義務と権利
株式は、株式の引受価額を限度とする出資義務を負うだけで、それ以外の義務は負わない。
株式の所有者である株式の権利(株主権)は、「自益権」と「共有権」に分けられ、共益権は、さらに単独株主権と少数株主権に分けられる。
会社法制定により、株主は、?剰余金の配当を受ける権利、?残余財産の分配を受ける権利、?株式総会における議決権、を有することが明文化され、自益権及び共益権を有することが明示された。
自益権はすべて単独株主義であるが、共益権には、議決権、責任追及等の訴え(株式代表訴訟)等の単独株主権のほか少数株主権が定められており、株主間の経営上の意見が大きく異なる場合等に効果的である。
b 株主代表訴訟
本来、取締役の責任追及は会社自ら行うべきものである。しかし、取締役間の馴れ合い等から会社が取締役の責任追及を怠る場合が散見される。そのような場合に、株式が会社の代表機関的に地位に立ち、取締役の責任追及をする株式代表訴訟により、取締役の業務執行の適正を図り、間接的に株式の利益を図ることができる。
鄱 株式主導の原則
株式平等の原則とは、株式が、株主としての四角に基づく法律関係について、その所有する株式の数に応じて平等の取扱を受けることを言う。株式平等の原則の内容は、?各株式の内容が平等であること(内容の平等)、?各株式の内容が平等である限り、同一の取扱をしなければならないこと(取扱の平等)、である。もっとも、法律により例外が設けられることもある(たとえば、少数株主権、種類株式等)。
このような株式平等原則は衡平の観念から従来から認められてきたが、会社法では、株主の平等としてこの原則が明文化された。もっとも、公開会社でない株式会社については、定款の定めにより、株式の基本的権利について株主ごとに異なる取扱いを行うことができるという例外が認められている。
鄴 特殊の株式
会社は、一定の範囲内で権利内容の異なる株式(種類株式)を発行することができる。これは、株式平等原則のうち「内容の平等」の例外にあたるものである。これは、異なる内容の株式を発行することで、投資家の多様なニーズに応え、株式発行による資金調達を容易にしようというねらいに基づいている。
種類株式を発行するには、定款にそのような株式を発行すること及びその株式の内容・数を定める必要がある。なお、種類株式を発行した会社が、株式の種類の追加等を行い、ある種類株主に損失を及ぼすおそれがあるときは、原則としてその種類株主総会の決議が必要となる。
a 優先株・劣後株・混合株
優先株とは一定の事項について、他の種類の株式に対して優先的取扱を受ける株式である。
劣後株とは、一定の事項について劣後的取扱いを受ける株式である。
ある点につき優先的取扱を受け、他の点では劣後的扱いを受けるものが混合株である。
たとえば、業績不振の会社は優先株発行により株式募集を容易にし、また、業績好調の会社は劣後株発行により既存株式の利益を害さないように配慮する等、数種の株式を使い分けて資金調達の便宜を図ることができる。
b 議決権制限株式
議決権制限株式とは、議決権がないか決議事項の一部についてのみ与えられている株式のことである。
公開株式においては、議決権制限株式の数が発行済み株式総数の2分の1を超えた場合、会社は直ちにこれを2分の1以下にするため必要な措置を講じなければならない。
c 譲渡制限株式
譲渡制限株式とは、譲渡による取得に際して、その株式会社の承認を要する株式のことである。
d 取得請求権付株式
取得請求権付株式とは、株主がその株式会社に対して、その株式会社の承認を要する株式のことである。取得請求権付株式を発行する場合は、その取得の対価等を定款で定めなければならない。
e 取得条項付株式
取得条項付株式とは、株式会社が、一定の事由が生じたことを条件として、その株式を取得することが出来る株式のことである。取得請求権付株式と同様、取得の対価等を定款で定めなければならない。
f 全部取得条項付種類株式
全部取得条項付種類株式とは、株式会社が、株式総会の決議によって、その種類の株式全部を取得することができるもののことである。
これにより、取得条項付株式と同様、会社は強制的に株式の種類を転換できる種類株式を発行することが可能となり(例えば、議決権の制限のない株式を無議決権株式に転換)、これを敵対的買収に対する防衛策として用いることも出来る。
g 種類株式に拒否権を認めた種類株式
株主総会、取締役会等において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類株式の種類株主総会の決議を必要とするものである。「黄金株」とも呼ばれる。
h 種類株主総会で取締役・監査役を選任できる株式
当該種類株式の種類株主総会により取締役・監査役を選任することを認めるものである。ただし、委員会設置会社および公開会社では、この種類株式を発行することは出来ない。
鄯 トラッキング・ストック
ラッキング・ストックとは、会社が営む特定の事業(例えば、特定の営業部門や完全子会社)の業績にのみ価値が連動するよう設計された株式をいう。
例えば、複数の事業部門を有する株式会社において、特定部門が良い業績をあげていたとしても、他の事業部門が大きな赤字を抱えている場合、会社全体として配当可能利益を計上できず、配当が出来ないことになる。しかし、業績の良い特定部門に連動する株式があれば、会社全体の収益にかかわらず、高い配当を得ることが可能になり、赤字企業であっても、史上からの資金調達が容易となる。
平成13年1月、ソニーが商法改正を待たずに、種類株の一種として認め得るとの解釈の下で、発行のための定款変更に踏み切り、法務省も種類株としての登記を認めた。こうした実務の後押しを受け、その後の平成13年11月の商法改正において、商法上の位置づけがはっきりし、会社法にも継承された。現在、トラッキング・ストックの1つである子会社連動配当株は、東京証券取引所において上場の対象となっている。
鄽 単元株制度
単元株制度とは、定款をもって、株式の一定数をまとめたものを一単元と定め、一単元につき一個の議決権を付与し、一単元に満たない株式には議決権を認めない制度のことをいう。例えば、1.000株を一単元とした場合、1.000株につき一個の議決権が与えられ、1.000株未満の株式には議決権が与えられない。
単元株制度は、1株の大きさを小さくして株式の流動性を持たせつつ、議決権行使に伴う株式管理コストを低下させるために認められた制度である。
一単元の株式の数は、定款により事由に定められるが、法務省令で定める数を超えることは出来ない。会社法施行規則34条はこの数を1.000とした。これは、あまりに大きな単位を一単元とすると、事実上、大株主のみしか議決権を行使できなくなり、零細な少数株主の利害を害してしまうためである。
単元未満株式については、残余財産分配請求権を除き、定款の定めにより、その権利の全部または一部を制限することができる。
酈 株券
株券とは、株式すなわち株式としての地位を表章する有価証券をいう。株券の記載事項は法定され、株主の氏名や商号等が記載される。また、1枚の株券に複数の株式を表章することが可能である(「100株券」「1.000株券」等の記載ある株式)。
株券はすでに成立している権利を表章するに過ぎず、手形小切手のような文言証券・説権証券ではない。また、会社の設立が無効となれば株券も無効となるから無因証券でもない。
株券も有価証券なので、権利の移転および行使は株券に基づいて行われる。すなわち、株式の譲渡には株券の交付を要する。この点、権利行使については、株式名簿の記載がなければできないとされているが、名簿の書換えには、株券の呈示を要するので、間接的には、権利行使に株券が要求されているといえる。
a 株券の発行
従来は、株券の交付が株式譲渡の要件とされていたため、会社は成立又は新株払込期日以後、遅滞なく株券を発行しなければならなかった。しかし、これでは会社は株券の発行・流通・保管等にともなうコストを負担しなければならず、株式も紛失盗難・偽造などのリスクを背負うことになっていた。
そこで、会社法により、株券は不発行が原則となった。なお、株式名への記載がなされていても、株式名簿に記載・記録された名義人が無権利者であった場合には、仮にその名義人が善意かつ無重過失であっても、その株式についての権利を取得できない。また、名義人があっても、その株式についての権利を取得できない。また、名義人が真の株式でない場合、会社がその者を株しいとして扱っても会社からの通知・催告の場合を除き、会社は免責されない。
一方、株式会社は、その株式に係わる株券を発行する旨を定款で定めることもできる。この定款の定めがある会社を株券発行会社という。
株券発行会社では、株式を発行した日または株式の併合・分割がその効力を生じた日以降遅滞なく、株券を発行しなければならない。ただし、公開会社でない株券発行会社の場合は、株主から請求がある時までは、株券を発行しなくてもかまわない。
b 株券不所持制度
株券不所持制度とは、株式について、株券の所持を欲しない旨の株主の申出により、会社が株券を発行しない制度のことを言う。
この制度を利用することで、株券の所持に伴う盗難・紛失などのリスクを回避することができる。
この制度を利用するには、株主が会社に株券の不所持を申し出る必要がある。申し出を受けた会社は、遅滞なく株券不発行の旨を株主名簿に記載、記録しなければならない。そして、提出された株券は株主名簿への記載・記録がなされた時点で無効になる。
不所持の申し出をした株主はいつでも、株券の発行を会社に請求することができる。なお、定款に単元株未満株式を発行しない旨を定めていない場合は、単元株未満を発行できるため、株券不所持の申し出をした単元未満株主が株券の交付を請求したときは、単元株未満株券が交付される。
c 株券失効制度
株券失効制度は、株主が株券を喪失した場合、株券が善意取得されることを防止するために、速やかに株券を失効させることができるとする制度である。
d 株主名簿
株主名簿とは、株主および株式に関する事項(株券発行会社においては株券に関する事項を含む)を記載または記録した帳簿または電磁的記録のことを言う。株式会社は 必ずこれを作成し、会社の本店または会社に代わって株主名簿に関する事務を代行する株式名簿管理人の営業所に備え置かなければならない。
会社は、株主総会の召集通知その他、株式に関する事項をこの株主名簿によって処理し、名簿上の名義人に権利を行使させれば免責される(免責力)。また、株式の移転は、株主名簿への記載・記録(名義書換)がなければ会社その他の第三者に対抗することができない(株式の質入についても同様)。名義書換をした株主は、それ以後、株券を提示することなく会社に権利行使することができる(資格授与的効力)。なお、名義書換の請求は、原則として株式取得者と、取得した株式の株主として名義に記載又は記録されている者とが共同していなければならない。
また、会社は株主名義の記載または記録をもとに株主への通知・催促を行えば足り、その発信がなされれば、通常到達すべきだった時に到達したものとみなされる。
この制度により、権利行使のつど、株券の呈示を求める必要がなくなり、株式管理コストの削減や株主管理事務の円滑化を実現することができる。
e 基準日
株式は自由に譲渡でき、株主に関する事項は常に変動するので、いつの時代の株主が株主総会において議決権を行使し、また配当を受けることができるのかを、確定する必要がある。そこで、会社法は基準日制度を設けている。
すなわち、株式会社は、一定の日(基準日)を定め、基準日において株主名簿に記載または記録されている株主(基準日株主)を、その権利を行使することができる者と定めることができる。
酛 株式の譲渡
投資資本の回収方法には、?株式を譲渡する、?出資の払戻をうける、という2つの方法がある。株式会社では、資本維持の原則から、出資の払戻が厳しく規制されているため、?の方法が重要である。そして、この株式の譲渡は、原則として自由である(株式譲渡自由の原則)。株券発行会社では、株主の地位(株式)は、株券という有価証券に表章されているので、株式の譲渡は、譲渡の意思表示とともに株券を交付することを要する。
もっとも、株式譲渡自由の原則にはいくつかの例外がある。例外には、法律によって特別に制限しているもの、定款によって制限するもの及び株主が契約を締結することで制限に服しているものがある。
a 法律による譲渡制限
?権利株(会社の成立前の株式引受人の地位)の譲渡制限
 権利株の譲渡は、会社との関係では効力を生じない。これは、権利株の段階で権利が譲渡されると、会社の株券発行事務が渋滞してしまうからである。
?株券発行前の株式譲渡制限
 権利株の譲渡と同じく、会社との関係では効力を生じない。制限の趣旨は、株券発行事務の渋滞防止にある。
?子会社の親会社株式の取得制限
 子会社は親会社の資産を形成し、子会社による親会社株式の取得は、資本の空洞化につながる。また、子会社に対する支配禁を利用し、親会社が親会社の株価を不当に操作する等の弊害も考えられる。このため、子会社が親会社の株式を取得することは原則できない。
?独占禁止法による株式の取得制限
 公正で自由な競争が阻害されないように、独占禁止法は一定の株式取得につき制限を定めている。
?証券取引法金融商品取引法)によるインサイダー取引の制限
 証券市場における取引の公正を図るため、内部者が行ういわゆるインサイダー取引について、規制がなされている。
b 定款による譲渡制限
同属会社等いわゆる閉鎖会社では、好ましくない他人が株式を譲り受け、経営の攪乱要因となることを防ぐ必要がある。そこで、従来の商法は、定款の定めにより、株式譲渡につき会社の承認を要する旨の制限をすることを可能としていた。会社法では、譲渡制限を株式の内容として公正することとした(いわゆる種類株式の一種)。
すべての株式を譲渡制限株式とする場合は、?株式の譲渡による取得について会社の承認を要する旨、?一定の場合に会社が承認をしたとみなすときは、その旨及び当該一定の場合を定める。
これらについては、設立時の原始定款によるほか、会社設立後に定款を変更して譲渡制限をすることができる。しかし、そのような定款変更のための株主総会の決議要件はきわめて厳格である。
c 契約による制限
株主が会社または会社以外の者と契約を締結し、契約上の義務として、譲渡制限を受ける場合がある。これは、定款で譲渡制限を設ける場合には、相当厳格な要件が要求されるため、その代替手段として用いられる手法である。契約に違反しても、譲渡自体は有効であり、債務不履行責任を八景させるに止まる。
この契約が、実質的に、株主の投下資本を著しく制限する場合には、厳格な要件を要求した法の趣旨を潜脱するものであり、契約は無効とされる。
醃 自己株式
a 自己株式の取得
平成13年改正により、これまで厳格な制限の下にあった自己株式の取得が原則として自油化された(いわゆる金庫株の解禁)。
従来、会社が自己株式を取得するには、原則として、定時株主総会の決議を経たうえで、市場取引又は公開買付けによらなければならなかった。しかし、会社は株主との合意により自己株式を有償で取得することが認められるようになった。
もっとも、この場合、予め株主総会の決議によって、取得する株主の種類および種類ごとの数、対価の内容およびその総額、取得期間(1年以内)を定めなければならない。この場合の株主総会は定時株主総会の決議に限られず、また普通決議で足りる。株主総会の決定に従い株式を取得しようとするときは、具体的内容を会社(具体的には取締役、取締役設置会社では取締役会)が決定し、株主に通知する。
自己株式を特定の株式から取得する場合、株式会社は、株主総会の特別決議により取締役(取締役会設置会社においては取締役会)が決定した自己株式取得に関する事項の通知を特定の株主に対して行うことを決定できる。そして、その決定を行おうとする場合、他の株主に対して売買追加請求ができる旨を通知しなければならない。
ただし、市場価格のある株主を市場価格以下で取得する場合および、公開会社でない株式会社が相続人等の一般継承人から取得する等の場合、売主追加請求制度は適用されない。
市場取引等により取得する場合、取締役会設置会社は、定款の規定に基づき、取締役会決議で、市場取引または公開買付けにより自己株式を取得できる。また、株主総会の普通決議により取得することも認められる。この場合、株主の権利を害するものではないため、株主への通知は不要である。
b 自己株式の保有、処分
以前は自己株式を取得した場合にはなるべく速やかにこれを処分する必要があった。しかし、改正により、会社は取得した自己株式を処分する義務はなく、そのまま保有し続けることができるよになった。そして、これを処分するには、取締役の決定(取締役会設置会社においては取締役会の決議)で株式の消却(特定の株式を消滅させられる行為)を行うか、募集株式の発行を行うことが認められるようになった。

【第2節:株式会社のしくみ】1.株式会社の設立

1.株式会社の設立(1−4,2−32)
株式会社の設立は、?営利社団法人としての実態の形成と?法人格取得という2つの側面を有する。株式会社においては、資本充実・維持が要請させるので、設立は厳格な手続によってなされる。
実態の形成は、?根本規範(定款)の作成、?人的基礎の確立(社員の確定)、?物的基礎の確立(出資の履行)、?組織の確立(機関の選任)の順で行われる。
実体が形成されると、本店の所在地において設立の登記を行う。そして、登記によって法人格が取得され、設立手続が完了する。

(1)株式会社の設立
株式会社を設立する方法としては、?発起設立、?募集設立、の2つがある。発起設立は、発起人(1人でも可)が会社設立時に発行する株式の総数を引き受けて会社を設立する方法である。募集設立は、発起人が会社設立時に発行する株式の一部を引き受け、残りの株式について株式を募集して会社を設立する方法である。

(2)株式会社の設立方法
鄯定款の作成
株式会社の設立には、まず定款の作成が必要になる。定款は、発起人が作成する。作成された定款(原始定款)は公証人の認証を受ける必要がある。この認証がないと、定款の効力は発生しない。
定款は、電子的記録によって作成することも出来る。
定款に記載する事項として、絶対的記載事項、相対的記載事項、変態設立事項、任意的記載事項がある。
 a 絶対的記載事項
 絶対的記載事項とは、基本的かつ重要な事項であり、この記載がなければ定款は無効である。
 ?会社の目的…会社の事業目的
 ?商号…会社が自己をあらわすために用いる名称
 ?本店の所在地…最小行政区画(市町村/東京特別区)により記載
 ?設立に際して出資される財産の価額またはその最低額…記載された額以上の財産が現実に出資されなければならない。
 ?発起人の氏名または名称及び住所…記載された者が発起人となる
 b 相対的記載事項
 必要に応じて記載すればよく、仮に記載しなくとも定款自体は有効である。ただし、記載をしなかった事項については、その効力は認められない。
 変態設立事項は、相対的記載事項にあたる。
 c 変態設立事項
 発起人の権限濫用が生じやすく、また会社に対する重大な損害を与えかねない一定の事項については、変態設立事項として、特別の規制に服するものとされている。
 d 任意的記載事項
 法の定める記載事項以外であっても、任意に記載することができる(任意的記載事項)。強制法規や公序良俗に反しない限り、記載どおりの効力が生じる。
鄱株式の引受けと払込み
定款が作成されると、株式の引受けと払込み(出資の履行)が行われる。発起設立と募集設立では、流れが異なる。
 a 発起設立
 発起設立では、発起人が設立時に発行する株式総数を引受け、遅滞なく発行価額全額を払い込まなければならない。払込みは、あらかじめ定めた銀行または信託会社(払込取扱金融機関)において行う。
 b 募集設立
 募集設立では、発起人が引き受けなかった株式について、引き受けてくれる出資者を募集する。
 引受を希望する出資者は、株式の引受けを申込み、発起人の割り当てを受けることで引受人となることができる。引受人は、払込期日までに、払込取扱金融機関において、その全額を払い込まなければならない。
鄴機関の選任
引受け・払込みによって、財産的な基礎が確立すると、機関が選任される。
発起設立では、発起人の引受け・払込みの後、発起人が取締役などを選任する。募集設立の場合は、払込後に召集される創立総会にといて選任される。
鄽会社は、登記した時に、法人格を取得して設立する。登記は、本店所在地を管轄する法務局(登記所)で行う。登記事項は、商業登記簿に記載され、公開される。設立登記は、法律の定める手続が終了した日など、一定の日から2週間以内に行わねばならず、怠ると過料に処せられる。

(3)設立に関する責任
設立関与者には、それぞれ一定の責任が課せられる。これは、会社設立における不正行為を防止し、また関係する債権者や株式引受人を保護する趣旨である。
a 資本金充実責任
従来、設立の際には、定款で定められた発行株式総数について、引受・払込がなされることが必要とされ、これを欠けば設立無効の原因になるので、そうした事態を回避するため、発起人・取締役等に重い資本充実責任が課されていた。
しかし、会社法では、定款で定めた「設立に際して出資される財産の価額又はその最低限」が出資されれば、出資の全部が履行されなくても会社の設立が認められることになったため、資本充実責任が緩和され、発起人などの引受・払込・給付担保責任は廃止された。そして、会社法上、発起人等の負う資本充実責任は、財産価格填補責任のみになっている。
b 任務懈怠責任
発起人や設立時取締役・監査役は、設立中の会社の機関として、善管注意義務を負う。この義務に違反した場合には、会社に対し、連帯して損害賠償責任を負わなければならない。
c 会社不成立の場合における発起人の責任
会社の設立手続が設立登記に至る前に挫折し、会社が設立しなかった場合を、会社の不成立という。会社不成立の場合、発起人は、会社の設立に関して行った行為について連帯して責任を負う。すでに支出した会社の設立に関する費用も発起人の負担になり、株式引受人に負担させることはできない。
d 議事発起人の責任
発起人でないのに、株式募集広告等に自己の氏名または名称・会社設立を賛助する旨の記載・記録することを承諾した者は、議事発起人として、発起人と同一の責任を負う。ただし、擬似発起人が発起人としての任務を有しないので、任務懈怠責任は負わない。

【第1節:会社制度】

1.持分会社と株式会社(1−1,2−29)
会社法上の会社は、会社内部で社員の個性が重視される持分会社と、社員の個性が重視されない株式会社とに大別できる。さら

に、持分会社は、合名会社・合資会社合同会社の3種類に分けられる。
持分会社では、原則として、各社員が業務執行権を有し、会社を代表する。すなわち、各社員は直接、会社経営に携わる事がで

きる。

2.さまざまな持分会社(1−2,2−30)
(1)合名会社
合名会社は、最も組合に近い会社形態である。合名会社は、少人数で、比較的小規模は事業を行うのに適切な会社形態である。

その一方、多数の人が集まって、大きな事業を行うには、不向きである。
合名会社では、社員は直接無限責任を負担する。すなわち、会社が債務を支払うことが出来ない場合、社員は自己の財産をもっ

て、その全額を支払わなければならない。
(2)合資会社
合資会社は、合名会社と同じく、小規模な事業を行うための会社形態であり、合名会社の変形形態である。合資会社と合名会社

との違いは、出資を限度とする責任のみを負担する有限責任社員の存在にある。つまり、合資会社は、合名会社の社員と同様に

直接無限責任を負う無限責任社員と、未履行出資額につき直接に有限責任を負うに過ぎない有限責任社員からなる。
(3)合同会社
合同会社は、会社法によって新たに認められた形態の会社である。対外的には社員の有限責任が保障され、対内的には組合的な

定款自治および社員の有限責任が認められる点で有限責任事業組合(LLP)に類似する。しかし、構成員課税が認められず、出

資者は配当のほかに社員としての報酬を受けることができ、合同会社自身に法人格が認められるという点に違いがある。
債権者の信頼は社員の個性に対して向けられているため、持分会社は、相互に信頼関係を有するものの間で共同して事業を行う

場合に適した企業形態である。

3.株式会社(1−3,2−31)
株式会社は、大規模な事業を行うのに適した会社形態である。また、さまざまな工夫によって、利害関係人のバランスをうまく

調和させる仕組みが整っている。そのため、株式会社は、最も進化した会社形態だと評価される。
なお、会社法の制定により有限会社法は廃止され、株式会社と同一の規模の下におかれることになった。もっとも、既存の有限

会社については経過措置により、そのまま存続することが可能である。(特例有限会社)。

(1)株式会社の基本的特徴
鄯 株式制度
株式会社では、細分化された均一な単位である株式という形式で出資を募る。
鄱 間接有限責任
株式会社では、より一層、出資を促進するため、投資家によって危険な無限責任を避け、間接有限責任を採用している。間接有

限責任とは、株主は、会社に対してその有する株式の引受価格を限度とする有限の出資という責任を負うだけで、会社債権者に

対しては何らの責任を負わないとする原則である。
鄴 資本制度
株式会社が間接有限席にを採用したので、会社債権者は、株式から債務の弁済を受けることができない。それゆえ、会社債権者

は、会社財産から弁明を受けるほかない。そこで、会社財産をいかに十分確保するかが、重要な問題となる。
株式会社では、この会社財産確保のための制度として、資本金の額に相当する一定の純資産が常に確保されていなければならな

いという制度(資本制度)を採用した。すなわち、株式会社においては、資本金という一定の枠を設け、この資本金の額に見合

う財産の拠出を求め(資本充実の原則)、かつその会社財産が資本金の額を下回るまで流出することがないようにしている(資

本維持の原則)。
鄽 最低資本金制度
株式会社では、資本制度によって会社財産確保が図られるが、資本の枠自体が小さすぎれば、結局、会社債権者を保護するとい

う本来の目的を果たすこともできない。そこで、最低資本金制度が導入され、株式会社の資本の額は1000万円以上であるこ

とが必要とされていた。また、有限会社の資本金については、300万円以上とされていた。
しかし、個人が起業する際、最低資本金制度は大きな障害となりかねないことから、創業者が株式会社・有限会社を設立する場

合において、経済産業大臣の確認を受けた確認会社については5年間に限り、最低資本金の定めが適用されない特例が認められ

ることになった。そして、会社法においては、最低資本金制度が廃止され、この特例制度が一般化された。