【第2節:株式会社のしくみ】3.株主と株主総会

3.株主と株主総会(1−6,2−34)
(1)株主総会とは
株主総会は、株主によって構成される会社の最高機関である。すべての株式会社は株主総会を設置する必要がある。
従来は株主総会の決議事項は、会社・株主によって重要かつ根本的な事項に限られていた。それは、経営に関する実行は、専門家である取締役に委ねたほうが、結果的に株主の利益になるからである。しかし、わが国では、対外的な信用等の面から、企業の規模に限らず株式会社形態が圧倒的に多く選択され、多くの場合、法の予定する企業形態と現実の企業形態との間に齟齬が生じていた。
そこで、会社法ではこれを解消すべく、株式会社と有限会社を統合し、1つの会社類型とした。そして、取締役会設置会社において株主総会で決定できる事項は従来通り会社の基本的事項(会社法に規定する事項および定款で定めた事項)に限定しつつ、取締役会非設置会社における株主総会は、その権限に制限がない万能機関とされた。
なお、会社法の規定により株主総会の決議事項とされているものについては、その決定を取締役会等の機関に一任することはできない。株主総会において重要な事項を決定したうえで、具体的事項を取締役等に委任することが認められるのみで、仮に定款でそのような定めをしても、その定款の定めは無効である。
これに対して、取締役会設置会社において、会社法上、取締役会の決議事項とされているものを定款で株主総会の決議事項とすることは、原則として可能である。

(2)株主の議決権
鄯 一株一議決権の原則
株主は、一株(単元株制度を利用する会社においては一単元)につき一議決権を有する(一株一議決権の原則)。これは株主平等原則の議決権の面への表れである。
ただし、単元未満株式、議決権制限株式や会社の有する自己株式等の例外がある。
鄱 議決権の行使方法に関する問題点
株主の議決権行使は、株主が経営に参加できるほとんど唯一の機会であり、取締役の業務執行を直接監督できる数少ない機会の1つである。そこで、株主の議決権行使は、できるだけ尊重される必要がある。
ただし、事務負担の軽減という会社全体の利益のため、また株主権を濫用して会社に損害を与える総会屋に対処するため、一定の限度がある。

(3)株主総会の招集と進行
鄯 召集権者
株主総会の召集は、原則として取締役(取締役会設置会社においては取締役会)が決定し、召集権社である(代表)取締役がこれを執行して召集する。
また、6ヶ月以上前から会社の総株主の議決権の100分の3以上を有する株主は、取締役に総会の招集を請求することができる。この場合、まず取締役に召集を請求し、召集手続がとられないときには、裁判所の許可を得て自ら召集することができる。その趣旨は、株式の利益を確保するため会社の経営に参加することを認めるべき点にあるが、その株主総会にかかる費用は、株主の負担となる。
鄱 召集の時期及び場所
定時株主総会は、毎年少なくとも1回、一定の時期に召集することを要する。また、臨時総会は、臨時の必要があるときに召集される。
鄴 召集通知
召集通知は、会日(開催日)より2週間前までに発送しなければならない。召集通知には、会議の目的たる事項(議題)のほか、重要事項については議決権の行使について参考となると認められる事項を記載する。また、定時総会の召集通知には、貸借対照表損益計算書等の計算書類を添付する。これらは、株主に一定の標準期間を与え、総会の議事を活性化しようとする趣旨である。
鄽 株主の提案権
本来、株主総会における議事内容は、取締役会で決定される。ただし、多数派株式の利益に偏ることを防止するため、少数株主にも、株主総会における議題及び議案を追加提出する権利(株主提案権)が認められている。
株主提案権には、?一定事項を株主総会の会議の目的とすることを請求する権利、?株主総会の目的である事項につき議案を提出する権利、?当該株主が提出しようとする要領を株主に通知することを求める権利がある。
株主提案権のうち?は、取締役会設置の有無にかかわらず単独株主権であるが、?および?は、取締役会設置会社においては、少数株主権であり、その要件は6ヶ月以上前から(当該会社が公開会社でない場合は不要)そう株主の議決権の100分の1以上、または300個以上の議決権を有する株主であることである。議題・議案提案権の行使期間は、総会の8週間前までである(平成16年改正により、従来の6週間から8週間に拡張され、会社法もこれを継承)。
これにより、株主は、一定の事項を株主総会の会議の目的とすべきことおよびその事項を召集通知に記載・記録すべきことを請求できることになった。もちろん、そもそも株主総会で決議できない事項について提案することはできない。

(4)議事と決議方法
鄯 議事の方法
議事の方法は、定款の定めまたは慣習による。ただし、議事については議事録の作成が義務付けられている。
議長は、定款に定められなければ総会で選任する。議長は総会の秩序を維持し、議事を整理する職務権限を有し、議長の命に従わないものその他総会の秩序を乱すものを退場させることができる。
鄱 決議方法
株式総会で議決できるのは提案された議案についてのみである。株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し(定足数)、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行われるのが原則である。この定足数および決議要件については、定款で別段の定めを設けることができる。一部の大会社は、定足数をみたすことが困難であるため、定足数を排除する旨が定款で定められている。株主総会で決議される事項は上記の原則が適用されるもの(普通決議)のほか、これを加重した定足数・決議要件が定められている事項がある(特別決議事項、特殊決議事項)。
特別決議とは、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の多数をもって決議すること(ただし、定足数に対しては、定款で3分の1以上の割合を定めた場合はその割合以上、決議要件については定款で過半数を上回る割合を定めた場合はその割合以上)が必要な事項をいう。株主総会で議決する事項のうち、定款変更の場合のように、株主の立場からみて重要度が高い事項は特別決議事項とされている。
特別決議に比べて、株主にとっての重要性がより大きい事項は特殊決議事項とされ、より一層厳格な条件が定められている。特殊決議事項には、?発行する全部の株式を譲渡制限株式とする定款の定めを設ける変更を行うこと、?合併または株主交換をする株式会社が公開会社であり、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する対価の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合の、消滅株式会社等における吸収合併契約等の承認、?合併または株式移転をする株式会社が公開会社であり、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する対価の全部または一部が譲渡制限株式等である場合の、消滅株式会社等における新設合併契約等の承認、がある。
特殊決議事項は、議決権を行使することのできる株主の過半数以上であって、当該株主の議決権の3分の2以上と多数をもって決議することが必要である。定款によってこれらの要件を加重することも認められる。
株主平等原則の例外に関する定款の定めについて定款の変更を行う場合は(当該定款の定めを廃止する場合を除く)、総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上の多数をもって決議することが必要である。また、定款によってこれらの要件を加重することも認められる。

(5)株主総会活性化と総会屋の排除
a 株主総会の活性化
株主総会が今日のように形骸化したのは、株主の経営への無関心や会社の株主軽視の姿勢が主な原因とされている。これは、株主が単に経済的利益を得る目的に過ぎず、経営の意思も能力も有していないことが大きな原因である。さらに、わが国の上場会社の株主総会の開催日が6月下旬に集中し、株主が総会に参加しにくい状況が生じていることがさらにそれを加速されている。しかし、株主総会が、会社経営の適正を図るうえで重要な機能を有するものである以上、いかにその活性化を図るかが問題となる。
これについて近年、株主総会を投資家に向けられた広報活動(IR活動)の場として活用する動きがある。こうした動きは、形骸化した株主総会を活性化させようという試みの1つとして評価することができる。
また、最近の機関投資家による自己の利益を守るための投票行動も無視し得ない動きである。
b 総会屋
総会屋とは、議場を混乱させて議事の進行を妨害する等の行為によって、自己の存在をその会社に認識させ、威迫を用いて金品を要求したり(野党総会屋)、会社経営の側に立って、株主の質問等を妨害し、経営者から報酬を受け取ったりして(与党総会屋)、会社に規制する者をいう。こうした者と関係を持つのは、結託する暴力団の資金源となったり、企業のブランドイメージを極度に損なったりと、社会にとっても企業にとっても何もよいことはない。また、わが国企業の株主総会を形骸化させた大きな要因とも言われている。
そこで、会社法は、総会屋に限らず、何人に対しても株主の権利行使に関し、当該株式会社の計算において、財産上の利益を供与してはならないと規定した。財産上の利益の供与には正当な対価を授受する取引も含まれ、子会社の計算において利益を供与することも禁止される。これに違反して利益を供与したときは、これに関与した取締役等は連帯して供与した利益の価格に相当する額を会社に対して支払う責任を負う。また、利益の供与を受けた者はこれを会社に返還する義務を負う。この責任について、従来は取締役の責任は無過失責任だとされてきたが、当該利益供与をした取締役を除き、過失責任とされるようになった。
さらに、株主の権利の行使に関し当該株式会社またはその子会社の計算において財産上の利益を供与したときは、これに加担した取締役・監査役等の役員、支配人その他の使用人、および利益を受けた総会屋に刑罰を科している。以前は法定刑が「6月以下の懲役又は30万円以下の罰金」ときわめて軽かったため刑罰の抑止効果が十分でないとの批判があった。これを受けて、平成9年の改正で「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」に引き上げられ、これが現在の会社法に引き継がれている。