【第2節:株式会社のしくみ】4.会社の機関

4.会社の機関(1−7,2−35)
(1)会社を経営する人
株式会社において、所有と経営が分離され、取締役等の専門家に経営が委ねられているのは、?株主が多数に及び、かつ常に変

動し得るので事実上経営に従事することができない、?株主に必ずしも経営能力が備わるわけでなく専門家に委ねるのが合理的

である、という理由に基づく。
なお、会社法の制定に伴い、株式会社の機関については、次のようなルールの下、原則として柔軟に設計することが可能となっ

た。
?すべての株式会社には、株主総会のほか、取締役を設置しなければならない。
?公開会社以外の会社では、取締役の設置は任意であり、取締役会を設置する場合には、監査役監査役会)または委員会のい

ずれかを設置しなければならない。ただし、公開会社でない会計参与設置会社は監査役を置くことなく取締役会を設置するには

、取締役会を設置しなければならない。
?会計監査人を設置する場合には、監査役監査役会)または委員会のいずれかを設置しなければならない。逆に、委員会を設

置するには、会計監査人を設置しなければならない。なお、監査役監査役会)と委員会を同時に設置することはできない。
?会計参与は、すべての会社において任意に設置することができる。さらに、当該会社が、公開会社であるか否か、あるいは大

会社であるか否かにより、以下の通り、選択し得る機関設計が制限されている。
 ・公開会社は取締役会を設置しなければならない。
 ・大会社は会計監査人を設置しなければならない。
 ・公開会社である大会社は監査役会または委員会のいずれか設置しなければならない。
鄯 取締役会
a 取締役とは
従来、取締役は取締役会の構成員として、会社員の業務執行の意思決定、取締役の職務執行の監督をする者であり、取締役はそ

れ自身としては会社の機関ではなかった。
しかし、会社法は取締役会の設置を任意としたため、取締役会設置会社以外の会社では、原則として、取締役が各々会社の業務

執行権および代表権を有することになった。また、取締役会設置会社以外の会社では、その員数についても制限がなく、1人で

も足りることになった。なお、取締役会設置会社における取締役の役割および員数は、原則として従来通りとなっている。
取締役は、会社の機密を知り、また業務について幅広い権限を有している。そのため、取締役がその地位・権限を濫用すると、

会社は大きな損失を被りかねない。そのような事態を防止するために、取締役には、次のような義務が課されている。
?善管注意義務・忠実義務
取締役は、任用契約上、善管注意義務を負っている。会社法はこれを「忠実義務(忠実にその職務を遂行する義務)」と表現し

ている。こうした義務が課される実際的なメリットは、もしこの義務に反する濫用行為があれば、会社が取締役に債務不履行

任を追及し、また法令違反行為として損害賠償を請求することができる点にある。
?競業避止義務
取締役が行う競業については、その危険性から特別な規制がなされている。すなわち、取締役が競業を行うときは、事前に情報

を開示し、株主総会の承認(取締役会設置会社においては、取締役会の承認)を得なければならない。業務の知識・ノウハウに

通じた取締役が、会社の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図ることを防止する趣旨である。
取締役が上記の承認を得ずに競業取引を行った場合でも、取引行為自体は無効とならないが、当該取締役は、法令違反行為を行

ったものとして、会社に対して損害賠償義務を負担することになり、当該取引により取締役または第三者が得た利益の額が会社

の損害額と推定される。
?利益相反取引
取締役が会社との間で行う自己取引や、会社と第三者の取引のうち会社と取締役間で利益が相反する取引(間接取引)を利益相

反取引といい、この取引を行う場合、株主総会の承認(取締役会設置会社においては取締役会の承認)が必要とされる。こうし

利益相反取引も、取締役が会社の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図ることを防止しようとする趣旨の規定である


対象となる取引は、会社と取締役との利害が相反氏、会社に不利益を与えるおそれがある取引を広く含む。例えば、取締役が自

ら当事者として会社から財産を譲り受けたり、会社に財産を有償で譲渡したり、会社が取締役の債務を免除したりする行為が典

型的である(自己取引・直接取引)。会社と取締役以外の第三者との間で取引がなされるものの、実質的に見て利益相反がある

場合についても(間接取引の場合)、この規制の対象となる。
取締役会の承認を得ていない利益相反取引は、会社との間では無効である。そうすることが、会社にとって端的な救済となるか

らである。ただし、間接取引のように第三者が関与する場合には、第三者が不測の損害を被らないように配慮しなければならな

い。そこで、第三者が承認のない取引であると知っていた場合に限り、無効になるものと考えられている。
なお、利益相反取引により会社に損害が生じた場合、利益相反取引を行った取締役、株式会社が当該取引をすることを決定した

取締役、および当該取引に関する取締役会の承認決議に賛成した取締役は任務を怠ったものと推定され、会社に対して任務懈怠

に基づく損害賠償責任を負う。もっとも、法令または定款に違反する行為の取締役の責任であって、違反につき、その者が善意

かつ無重過失であるものは、株主総会主導の方法または取締役会主導の方法により、その取締役の責任を免除することができる

鄱 取締役会
a 取締役会とは
従来、株式会社には株主総会で選任される取締役の全員で構成される取締役会が必要的機関とされ、取締役会は合議により会社

の業務執行に関する意思決定を行い、取締役の職務執行を監督する役割を担っていた。会社法制定により、取締役会の設置は原

則として任意とされたが、取締役会設置会社における取締役会は、基本的に旧商法下の取締役会と同様の役割を担っている。取

締役会設置の趣旨は、討論を通じた相互牽制・相互監視によって、よりよい経営がなされるようにする点にある。
b 取締役会の決議事項
 ○重要な財産の処分および譲受け
 ○多額の借財
 ○支配人その他の重要な使用人の選任・解任
 ○支店その他の重要な組織の設置・変更・廃止
 ○業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
 ○定款に株式譲渡制限がある場合の譲渡の承認および承認拒否に伴う買受人の指定
 ○募集株式の発行
 ○株式の分割
 ○代表取締役の選定・解職
 ○取締役の競業取引の承認
 ○取締役の利益相反取引の承認
 ○新株予約権の発行
 ○計算書類の承認
 ○社債の発行
 ○一定の場合における資本金・準備金の額の減少
c 取締役会の形骸化とその対策
実際には、法の建前は、現状と齟齬をきたし、取締役会の形骸化が指摘されている。形骸化の原因には、業務の多角化・専門家

の進行、取締役の人数の増加などによって、実質的な討論が困難となったことがあげられる。
このような取締役会の機能不全は、コーポレートガバナンスに大きな悪影響を与える。そこで、いかに取締役会の昨日を回復す

るかが重要な問題となる。
取締役会の機能回復手段として、これまで社外取締役執行役員制度の活躍が提案されてきた。近年の商法改正ひいては会社法

制定は、企業のコーポレートガバナンスの実現を図ろうとするこうした動きに呼応するものだということができる。
?執行役員制度
わが国では、平成9年にソニーが初めて導入した。38人の取締役を10人に大幅削減して、新たに執行役員というポストを設

け、取締役会は戦略的意思決定と経営監視機能を担い、執行役員が業務執行を担うこととした。これは、委員会設置会社におけ

る執行役制度とは異なるが、経営の分業化と効率化を図る点で同様の趣旨に基づいている。
?常務会(専務会・経営会議等)
大企業においては、取締役の一部を構成員として、常務会・専務会・経営会議などと呼ばれる会議体が、取締役会とは別におか

れていることがある。これらの会議体は、機能不全に陥った取締役会の昨日について、事実上、代替するものである。しかし、

これには何ら法的な根拠は無く、取締役会の権限事項については、あらためて取締役会を召集し、決議する必要がある。
?特別取締役
特別取締役とは、重要な財産の処分および譲受けまたは多額の借財に関する決定を行うため、あらかじめ選定された取締役のこ

とをいう。これは、一定規模以上の大会社が、一定の事項に関して機動的に会社の意思決定を行えるようにする趣旨であった旧

監査特例法上の重要財産委員会制度を再構成したものであり、常務会等の役割の重要な一部が法制化されたものといえる。
特別取締役制度では、重要財産委員会制度と異なり、会社の規模要件は設けられておらず、取締役の人数が6人以上であって、

かつそのうち1人以上が社外取締役であればよい。そして、重要な財産の処分および譲受けまたは多額の借財についての取締役

会決議は、あらかじめ選定された3名以上の特別取締役のうち、議決に加わることができるものの過半数が出席したとき、その

過半数をもってすることができる。
鄴 代表取締役
代表取締役は、会社を代表しかつ会社の業務執行を行う独任制の機関である。取締役会の設置が任意とされたため、代表取締役

の設置も任意とされた。
代表取締役は、取締役会における決定に基づき業務を執行し、会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をなす権限

を有する。代表取締役の権限を一部制限することも可能であるが、この制限は善意の第三者に対抗することができない。
鄽 会計参与
a 会計参与とは
会計参与制度とは、公認会計士または税理士の資格を有する者が会社の機関として取締役等と共同して計算書類を作成する制度

をいう。この制度は、会社法制度に伴い、計算の適正を確保するために新設されたものである。会計参与は、すべての株式会社

で任意に設置することができる会社の機関であり、会社の役員である。したがって、取締役に準じた選任、任期や責任等が規定

されている。
b 会計参与の職務権限・義務
 ○計算書類の取締役等との共同作成
 ○会計帳簿・資料の閲覧・謄写権
 ○会社・子会社の業務及び財産の状況の調査権
 ○株主総会における意見陳述権
 ○会計参与報告の作成義務
 ○報告義務
 ○計算書類の備蓄義務
酈 監査役
会社法では、企業規模に応じて機関設計を柔軟に選択できるようになったため、株式会社でも独立した監査機関を有するものと

、そうでないものの2種類が存在し得ることとなった。
a 監査役とは
監査役とは、取締役の職務の執行を監査する独任制の機関をいう。監査役株主総会によって選任され、取締役会・代表取締役

から独立した立場で、常時、常務執行を監査する。監査役については、原則として任意に設置することができるが、設置するこ

とができるが、設置を強制される場合がある。
b 監査役の職務権限・義務
監査役は取締役の職務執行を業務及び会計の両面にわたって監査する(業務監査と会計監査)。監査は、取締役の業務執行が法

令・定款に違反するかという適法性監査であり、会社の経営にとって妥当かどうかという妥当性監査を行うことはできないと解

されている。なぜなら、監査役は業務執行の決定や執行に関与しないため妥当性について判断する能力に欠けるからである。ま

た、妥当性監査は経営判断に干渉することになり、監査の独立性を失われる可能性もあるからである。具体的には、監査役は次

のような権限・義務を有する。
?事業報告請求権・業務財産調査権
監査役は取締役及び会計参与ならびに支配人その他の使用人に対して、事業の報告を求めることができる。また、会計の業務及

び財産の状況を調査することができる。
?子会社に対する事業報告請求権・業務財産調査権
監査役は、職務を行うため必要があるときは子会社に対して事業の報告を求め、またその業務及び財産の状況を調査することが

できる。
?違法行為差止請求権
取締役が法令もしくは定款に違反する行為を行い、またはこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって会

社に著しい損害が生じるおそれがあるときは、監査役は取締役に対し、その行為をやめることを請求することができる。
?意見陳述権
監査役は、株主総会において、監査役の選任もしくは解任または辞任について、意見を述べることができる。
?株主総会に提出する議案や書類等の調査・報告義務
監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案等を調査しなければならない。この場合、法令もしくは定款に違反し、ま

たは著しく不当な事項があると認めるときは、株主総会にその調査結果を報告しなければならない。
?報告義務
監査役は、取締役が不正行為を行う、もしくは当該行為をするおそれがあるとき、または法令・定款に違反する事実もしくは著

しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく取締役(取締役会設置会社にあっては取締役会)に報告する義務がある。
?取締役会出席義務・意見陳述義務・取締役会招集請求権
監査役は、取締役会に出席する義務があり、必要があると認めるときは取締役会で意見を述べる義務がある。さらに、必要ある

と認めるときは、取締役会の招集を請求することができる。
酛 監査役会
a 監査役会とは
監査役会は、3人以上の監査役のすべてで構成され、その半数以上は社外監査役でなければならない。従来は、旧監査特例法上

の大会社についてのみ規定されていたが、会社法下では、大会社(公開会社でないものおよび委員会設置会社を除く)において

監査役会の設置が強制されるとともに、それ以外の会社においても任意に設置できるようになった。
b 監査役会の職務
監査役会は、?監査報告の作成、?常勤の監査役の選定及び解職、?監査の方針、監査役設置会社の業務および財産の状況の調

査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定、といった職務を行う。また、監査役に対して、いつでもその職務の

執行の状況の報告を求めることもできる。
醃 会計監査人
a 会計監査人とは
会計監査人とは、計算書類およびその付属明細書・臨時計算書類・連結計算書類の監査を職務とする者をいう。従来、旧監査特

例法上の大会社についてのみ規定されていたが、会社法下では、大会社に会計監査人の設置が強制されるとともに、それ以外
の会社においても任意に設置することができるようになった。
大会社以外の会社でも会計監査人を設置することができるようになったのは、例えば、ベンチャー企業が外部から資金調達を行

うために、外部の専門家による監査を受けることによって計算書類の適正さを表明したい場合等があるからである。
会計監査人は、公認会計士または監査法人の中から、株主総会の決議によって選任される。
b 会計監査人の職務権限・義務
会計監査人の職務権限は、その性質上、会計監査に限られている。そして、具体的な職務権限・義務は次の通りである。
?監査権限
会計監査人は、株式会社の計算書類およびその付属明細書、臨時計算書類ならびに連結計算書類を監査することができる。
?会計帳簿・資料等の閲覧・謄写権や報告請求権
会計監査人は、会計帳簿・資料等の閲覧・謄写をしたり、取締役および会計参与並びに支配人その他の使用人に対し、会計に関

する報告を求めたりすることができる。
?子会社に対する報告請求権や調査権
会計監査人は、会計監査人設置会社の子会社に対して会計に関する報告を求めたり、会計監査人設置会社もしくはその子会社の

業務および財産の状況の調査をすることができる。
?株主総会への出席・意見陳述権
会計監査人は、会計監査人の選任、解任もしくは不再任または辞任について、株主総会に出席して意見を述べることができる。

また、計算書類等が法令または定款に適合するかどうかについて会計監査人が監査役と意見を異にする場合も同様。
?会計監査報告作成義務
会計監査人は、計算書類等を監査した場合、会計監査報告の作成義務がある。
?報告義務
会計監査人は、職務を行うに際して取締役の職務の執行に関し不正の行為または法令もしくは定款に違反する重大な事実がある

ことを発見したときは、遅滞なく、監査役に報告する義務がある。
醞 委員会設置会社
委員会設置会社は、執行役に業務執行権限を大幅に委譲して経営の合理化・迅速化を図るとともに、取締役会による業務執行監

督を強化するという目的の下、監査役を置かない会社形態として、平成14年度の旧監査特例法改正で導入され、これが会社法

にも継承されている。従来は、大会社にのみその設置が認められていたが、会社法下では、任意に設置することができる。
委員会設置会社では、意思決定・経営監視機能と業務執行が明確に区分されている。
a 委員会設置会社のしくみ
委員会設置会社には、指名委員会、監査委員会、報酬委員会という3つの委員会と、1人または2人以上の執行役が置かれる。

なお、委員会設置会社においては会計監査人を置かなければならず、監査役・特別取締役を置くことはできない。
委員会設置会社では、取締役に業務執行権がない。そのため、代表取締役も存在しないことになる。その代わり、執行役と呼ば

れる者が業務執行を担う。また、対外的には代表執行役が会社を代表する。代表執行役は、これまでの代表取締役に対応する。
ただ、取締役と執行役の兼任は否定されていないことから、意思決定・経営監視機能と業務執行が完全に分離されない場合もあ

りうる。委員会設置会社における取締役会は、委員会設置会社の業務執行の決定や執行役等の職務執行の監督といった職務を行

う。また、各委員会の委員の選定、執行役の選任も行う。
もっとも、すべての業務に関する事項を取締役会で決定するのは、迅速な意思決定を阻害するので、法の定める基本事項を除き

、執行役に業務執行の決定を委任することができる。法の定める基本事項には、競業取引・利益相反取引の承認や各委員会の委

員の選定・解職、執行役の選任・解任等がある。
b 各委員会
委員会設置会社においては、指名委員会、会社委員会、報酬委員会の3つの委員会を置かなければならない。
これらの委員会は、それぞれ3人以上の取締役によって組織され、委員は取締役会の決議で選定される。また、各委員会の委員

過半数社外取締役でなければならない。
?指名委員会
指名委員会とは、株主総会に上程する取締役および会計参与の選任および解任に関する議案の内容を決定する機関である。
?監査委員会
監査委員会とは、取締役および執行役ならびに会計参与の職務執行の監査および監査報告の作成をし、会計監査人の選任、解任

または不再任議案の内容を決定する機関である。監査委員は、他の委員と異なり、委員会設置会社もしくはその子会社の執行役

もしくは業務執行取締役または委員会設置会社の子会社の会計参与もしくは支配人その他の使用人を兼ねることができない。
監査委員会を構成する取締役(監査委員)は、次の職務を行う。その内容は、通常の株式会社における監査役の職務と類似して

いる。
 ・職務執行の報告請求権や業務・財産調査権
 ・子会社に対する事業報告請求権や業務・財産調査権
 ・執行役等の違法行為に対する差止請求権
 ・会社・取締役間の訴訟における代表権
 ・取締役会への報告義務
?報酬委員会
報酬委員会とは、取締役および執行役並びに会計参与が受ける個人別の報酬(執行役が使用人を兼ねている場合の使用人として
の報酬も含む)を決定する機関がある。
c 執行役
執行役とは、取締役会により委任された会社の業務執行を決定し、会社の業務を執行する機関である。執行役は、取締役会にお

いて選任され、取締役との兼任も可能である。
取締役は業務執行の権限を有さないので、取締役の地位にある者が業務執行に携わるには、執行役との兼任が必要になる。