【第2節:株式会社のしくみ】2.株式

2.株式(1−5,2−33)
(1)株式とは
株式とは、株式会社における社員の地位を表現する言葉である。この地位を所有する者を株主と呼ぶ。株式は、細分化された均一的な割合的単位であるため、株式は、出資額に応じて複数の株式を持つことになる(持分複数主義)。この点は、社員が出資の額に応じて大きさの異なる1個の地位を有する持分会社と異なる(持分単一主義)。
かつて、株式には、額面株式と無額面株式があった。しかし、額面株式が廃止され、現在では、無額面株式に一本化されている。さらに、会社法の制定により端株制度が廃止され、単元株制度へ一本化されたことにより、株式は一株未満にさらに細分化することができなくなった。
鄯 株式の義務と権利
a 株式の義務と権利
株式は、株式の引受価額を限度とする出資義務を負うだけで、それ以外の義務は負わない。
株式の所有者である株式の権利(株主権)は、「自益権」と「共有権」に分けられ、共益権は、さらに単独株主権と少数株主権に分けられる。
会社法制定により、株主は、?剰余金の配当を受ける権利、?残余財産の分配を受ける権利、?株式総会における議決権、を有することが明文化され、自益権及び共益権を有することが明示された。
自益権はすべて単独株主義であるが、共益権には、議決権、責任追及等の訴え(株式代表訴訟)等の単独株主権のほか少数株主権が定められており、株主間の経営上の意見が大きく異なる場合等に効果的である。
b 株主代表訴訟
本来、取締役の責任追及は会社自ら行うべきものである。しかし、取締役間の馴れ合い等から会社が取締役の責任追及を怠る場合が散見される。そのような場合に、株式が会社の代表機関的に地位に立ち、取締役の責任追及をする株式代表訴訟により、取締役の業務執行の適正を図り、間接的に株式の利益を図ることができる。
鄱 株式主導の原則
株式平等の原則とは、株式が、株主としての四角に基づく法律関係について、その所有する株式の数に応じて平等の取扱を受けることを言う。株式平等の原則の内容は、?各株式の内容が平等であること(内容の平等)、?各株式の内容が平等である限り、同一の取扱をしなければならないこと(取扱の平等)、である。もっとも、法律により例外が設けられることもある(たとえば、少数株主権、種類株式等)。
このような株式平等原則は衡平の観念から従来から認められてきたが、会社法では、株主の平等としてこの原則が明文化された。もっとも、公開会社でない株式会社については、定款の定めにより、株式の基本的権利について株主ごとに異なる取扱いを行うことができるという例外が認められている。
鄴 特殊の株式
会社は、一定の範囲内で権利内容の異なる株式(種類株式)を発行することができる。これは、株式平等原則のうち「内容の平等」の例外にあたるものである。これは、異なる内容の株式を発行することで、投資家の多様なニーズに応え、株式発行による資金調達を容易にしようというねらいに基づいている。
種類株式を発行するには、定款にそのような株式を発行すること及びその株式の内容・数を定める必要がある。なお、種類株式を発行した会社が、株式の種類の追加等を行い、ある種類株主に損失を及ぼすおそれがあるときは、原則としてその種類株主総会の決議が必要となる。
a 優先株・劣後株・混合株
優先株とは一定の事項について、他の種類の株式に対して優先的取扱を受ける株式である。
劣後株とは、一定の事項について劣後的取扱いを受ける株式である。
ある点につき優先的取扱を受け、他の点では劣後的扱いを受けるものが混合株である。
たとえば、業績不振の会社は優先株発行により株式募集を容易にし、また、業績好調の会社は劣後株発行により既存株式の利益を害さないように配慮する等、数種の株式を使い分けて資金調達の便宜を図ることができる。
b 議決権制限株式
議決権制限株式とは、議決権がないか決議事項の一部についてのみ与えられている株式のことである。
公開株式においては、議決権制限株式の数が発行済み株式総数の2分の1を超えた場合、会社は直ちにこれを2分の1以下にするため必要な措置を講じなければならない。
c 譲渡制限株式
譲渡制限株式とは、譲渡による取得に際して、その株式会社の承認を要する株式のことである。
d 取得請求権付株式
取得請求権付株式とは、株主がその株式会社に対して、その株式会社の承認を要する株式のことである。取得請求権付株式を発行する場合は、その取得の対価等を定款で定めなければならない。
e 取得条項付株式
取得条項付株式とは、株式会社が、一定の事由が生じたことを条件として、その株式を取得することが出来る株式のことである。取得請求権付株式と同様、取得の対価等を定款で定めなければならない。
f 全部取得条項付種類株式
全部取得条項付種類株式とは、株式会社が、株式総会の決議によって、その種類の株式全部を取得することができるもののことである。
これにより、取得条項付株式と同様、会社は強制的に株式の種類を転換できる種類株式を発行することが可能となり(例えば、議決権の制限のない株式を無議決権株式に転換)、これを敵対的買収に対する防衛策として用いることも出来る。
g 種類株式に拒否権を認めた種類株式
株主総会、取締役会等において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類株式の種類株主総会の決議を必要とするものである。「黄金株」とも呼ばれる。
h 種類株主総会で取締役・監査役を選任できる株式
当該種類株式の種類株主総会により取締役・監査役を選任することを認めるものである。ただし、委員会設置会社および公開会社では、この種類株式を発行することは出来ない。
鄯 トラッキング・ストック
ラッキング・ストックとは、会社が営む特定の事業(例えば、特定の営業部門や完全子会社)の業績にのみ価値が連動するよう設計された株式をいう。
例えば、複数の事業部門を有する株式会社において、特定部門が良い業績をあげていたとしても、他の事業部門が大きな赤字を抱えている場合、会社全体として配当可能利益を計上できず、配当が出来ないことになる。しかし、業績の良い特定部門に連動する株式があれば、会社全体の収益にかかわらず、高い配当を得ることが可能になり、赤字企業であっても、史上からの資金調達が容易となる。
平成13年1月、ソニーが商法改正を待たずに、種類株の一種として認め得るとの解釈の下で、発行のための定款変更に踏み切り、法務省も種類株としての登記を認めた。こうした実務の後押しを受け、その後の平成13年11月の商法改正において、商法上の位置づけがはっきりし、会社法にも継承された。現在、トラッキング・ストックの1つである子会社連動配当株は、東京証券取引所において上場の対象となっている。
鄽 単元株制度
単元株制度とは、定款をもって、株式の一定数をまとめたものを一単元と定め、一単元につき一個の議決権を付与し、一単元に満たない株式には議決権を認めない制度のことをいう。例えば、1.000株を一単元とした場合、1.000株につき一個の議決権が与えられ、1.000株未満の株式には議決権が与えられない。
単元株制度は、1株の大きさを小さくして株式の流動性を持たせつつ、議決権行使に伴う株式管理コストを低下させるために認められた制度である。
一単元の株式の数は、定款により事由に定められるが、法務省令で定める数を超えることは出来ない。会社法施行規則34条はこの数を1.000とした。これは、あまりに大きな単位を一単元とすると、事実上、大株主のみしか議決権を行使できなくなり、零細な少数株主の利害を害してしまうためである。
単元未満株式については、残余財産分配請求権を除き、定款の定めにより、その権利の全部または一部を制限することができる。
酈 株券
株券とは、株式すなわち株式としての地位を表章する有価証券をいう。株券の記載事項は法定され、株主の氏名や商号等が記載される。また、1枚の株券に複数の株式を表章することが可能である(「100株券」「1.000株券」等の記載ある株式)。
株券はすでに成立している権利を表章するに過ぎず、手形小切手のような文言証券・説権証券ではない。また、会社の設立が無効となれば株券も無効となるから無因証券でもない。
株券も有価証券なので、権利の移転および行使は株券に基づいて行われる。すなわち、株式の譲渡には株券の交付を要する。この点、権利行使については、株式名簿の記載がなければできないとされているが、名簿の書換えには、株券の呈示を要するので、間接的には、権利行使に株券が要求されているといえる。
a 株券の発行
従来は、株券の交付が株式譲渡の要件とされていたため、会社は成立又は新株払込期日以後、遅滞なく株券を発行しなければならなかった。しかし、これでは会社は株券の発行・流通・保管等にともなうコストを負担しなければならず、株式も紛失盗難・偽造などのリスクを背負うことになっていた。
そこで、会社法により、株券は不発行が原則となった。なお、株式名への記載がなされていても、株式名簿に記載・記録された名義人が無権利者であった場合には、仮にその名義人が善意かつ無重過失であっても、その株式についての権利を取得できない。また、名義人があっても、その株式についての権利を取得できない。また、名義人が真の株式でない場合、会社がその者を株しいとして扱っても会社からの通知・催告の場合を除き、会社は免責されない。
一方、株式会社は、その株式に係わる株券を発行する旨を定款で定めることもできる。この定款の定めがある会社を株券発行会社という。
株券発行会社では、株式を発行した日または株式の併合・分割がその効力を生じた日以降遅滞なく、株券を発行しなければならない。ただし、公開会社でない株券発行会社の場合は、株主から請求がある時までは、株券を発行しなくてもかまわない。
b 株券不所持制度
株券不所持制度とは、株式について、株券の所持を欲しない旨の株主の申出により、会社が株券を発行しない制度のことを言う。
この制度を利用することで、株券の所持に伴う盗難・紛失などのリスクを回避することができる。
この制度を利用するには、株主が会社に株券の不所持を申し出る必要がある。申し出を受けた会社は、遅滞なく株券不発行の旨を株主名簿に記載、記録しなければならない。そして、提出された株券は株主名簿への記載・記録がなされた時点で無効になる。
不所持の申し出をした株主はいつでも、株券の発行を会社に請求することができる。なお、定款に単元株未満株式を発行しない旨を定めていない場合は、単元株未満を発行できるため、株券不所持の申し出をした単元未満株主が株券の交付を請求したときは、単元株未満株券が交付される。
c 株券失効制度
株券失効制度は、株主が株券を喪失した場合、株券が善意取得されることを防止するために、速やかに株券を失効させることができるとする制度である。
d 株主名簿
株主名簿とは、株主および株式に関する事項(株券発行会社においては株券に関する事項を含む)を記載または記録した帳簿または電磁的記録のことを言う。株式会社は 必ずこれを作成し、会社の本店または会社に代わって株主名簿に関する事務を代行する株式名簿管理人の営業所に備え置かなければならない。
会社は、株主総会の召集通知その他、株式に関する事項をこの株主名簿によって処理し、名簿上の名義人に権利を行使させれば免責される(免責力)。また、株式の移転は、株主名簿への記載・記録(名義書換)がなければ会社その他の第三者に対抗することができない(株式の質入についても同様)。名義書換をした株主は、それ以後、株券を提示することなく会社に権利行使することができる(資格授与的効力)。なお、名義書換の請求は、原則として株式取得者と、取得した株式の株主として名義に記載又は記録されている者とが共同していなければならない。
また、会社は株主名義の記載または記録をもとに株主への通知・催促を行えば足り、その発信がなされれば、通常到達すべきだった時に到達したものとみなされる。
この制度により、権利行使のつど、株券の呈示を求める必要がなくなり、株式管理コストの削減や株主管理事務の円滑化を実現することができる。
e 基準日
株式は自由に譲渡でき、株主に関する事項は常に変動するので、いつの時代の株主が株主総会において議決権を行使し、また配当を受けることができるのかを、確定する必要がある。そこで、会社法は基準日制度を設けている。
すなわち、株式会社は、一定の日(基準日)を定め、基準日において株主名簿に記載または記録されている株主(基準日株主)を、その権利を行使することができる者と定めることができる。
酛 株式の譲渡
投資資本の回収方法には、?株式を譲渡する、?出資の払戻をうける、という2つの方法がある。株式会社では、資本維持の原則から、出資の払戻が厳しく規制されているため、?の方法が重要である。そして、この株式の譲渡は、原則として自由である(株式譲渡自由の原則)。株券発行会社では、株主の地位(株式)は、株券という有価証券に表章されているので、株式の譲渡は、譲渡の意思表示とともに株券を交付することを要する。
もっとも、株式譲渡自由の原則にはいくつかの例外がある。例外には、法律によって特別に制限しているもの、定款によって制限するもの及び株主が契約を締結することで制限に服しているものがある。
a 法律による譲渡制限
?権利株(会社の成立前の株式引受人の地位)の譲渡制限
 権利株の譲渡は、会社との関係では効力を生じない。これは、権利株の段階で権利が譲渡されると、会社の株券発行事務が渋滞してしまうからである。
?株券発行前の株式譲渡制限
 権利株の譲渡と同じく、会社との関係では効力を生じない。制限の趣旨は、株券発行事務の渋滞防止にある。
?子会社の親会社株式の取得制限
 子会社は親会社の資産を形成し、子会社による親会社株式の取得は、資本の空洞化につながる。また、子会社に対する支配禁を利用し、親会社が親会社の株価を不当に操作する等の弊害も考えられる。このため、子会社が親会社の株式を取得することは原則できない。
?独占禁止法による株式の取得制限
 公正で自由な競争が阻害されないように、独占禁止法は一定の株式取得につき制限を定めている。
?証券取引法金融商品取引法)によるインサイダー取引の制限
 証券市場における取引の公正を図るため、内部者が行ういわゆるインサイダー取引について、規制がなされている。
b 定款による譲渡制限
同属会社等いわゆる閉鎖会社では、好ましくない他人が株式を譲り受け、経営の攪乱要因となることを防ぐ必要がある。そこで、従来の商法は、定款の定めにより、株式譲渡につき会社の承認を要する旨の制限をすることを可能としていた。会社法では、譲渡制限を株式の内容として公正することとした(いわゆる種類株式の一種)。
すべての株式を譲渡制限株式とする場合は、?株式の譲渡による取得について会社の承認を要する旨、?一定の場合に会社が承認をしたとみなすときは、その旨及び当該一定の場合を定める。
これらについては、設立時の原始定款によるほか、会社設立後に定款を変更して譲渡制限をすることができる。しかし、そのような定款変更のための株主総会の決議要件はきわめて厳格である。
c 契約による制限
株主が会社または会社以外の者と契約を締結し、契約上の義務として、譲渡制限を受ける場合がある。これは、定款で譲渡制限を設ける場合には、相当厳格な要件が要求されるため、その代替手段として用いられる手法である。契約に違反しても、譲渡自体は有効であり、債務不履行責任を八景させるに止まる。
この契約が、実質的に、株主の投下資本を著しく制限する場合には、厳格な要件を要求した法の趣旨を潜脱するものであり、契約は無効とされる。
醃 自己株式
a 自己株式の取得
平成13年改正により、これまで厳格な制限の下にあった自己株式の取得が原則として自油化された(いわゆる金庫株の解禁)。
従来、会社が自己株式を取得するには、原則として、定時株主総会の決議を経たうえで、市場取引又は公開買付けによらなければならなかった。しかし、会社は株主との合意により自己株式を有償で取得することが認められるようになった。
もっとも、この場合、予め株主総会の決議によって、取得する株主の種類および種類ごとの数、対価の内容およびその総額、取得期間(1年以内)を定めなければならない。この場合の株主総会は定時株主総会の決議に限られず、また普通決議で足りる。株主総会の決定に従い株式を取得しようとするときは、具体的内容を会社(具体的には取締役、取締役設置会社では取締役会)が決定し、株主に通知する。
自己株式を特定の株式から取得する場合、株式会社は、株主総会の特別決議により取締役(取締役会設置会社においては取締役会)が決定した自己株式取得に関する事項の通知を特定の株主に対して行うことを決定できる。そして、その決定を行おうとする場合、他の株主に対して売買追加請求ができる旨を通知しなければならない。
ただし、市場価格のある株主を市場価格以下で取得する場合および、公開会社でない株式会社が相続人等の一般継承人から取得する等の場合、売主追加請求制度は適用されない。
市場取引等により取得する場合、取締役会設置会社は、定款の規定に基づき、取締役会決議で、市場取引または公開買付けにより自己株式を取得できる。また、株主総会の普通決議により取得することも認められる。この場合、株主の権利を害するものではないため、株主への通知は不要である。
b 自己株式の保有、処分
以前は自己株式を取得した場合にはなるべく速やかにこれを処分する必要があった。しかし、改正により、会社は取得した自己株式を処分する義務はなく、そのまま保有し続けることができるよになった。そして、これを処分するには、取締役の決定(取締役会設置会社においては取締役会の決議)で株式の消却(特定の株式を消滅させられる行為)を行うか、募集株式の発行を行うことが認められるようになった。