【第2章 会社の運営】2.剰余金の配当の要件

2.剰余金の配当の要件(1−9,2−37)
(1)剰余金の配当の形式的要件
従来、会社は決算期ごとに決算を行い、配当可能利益を算出し、利益処分案を作成し、取締役会の承認・定時株主総会における承認を受けて、利益配当を決定するものとされていた。これに対し、会社法では、利益配当は剰余金の配当として整理され、株主総会の普通決議によりいつでも株主に配当することができるものとされた。また、旧商法では認められなかった現物配当が認められ、これを行う際には株主総会の特別決議が必要とされることになった。
なお、剰余金の配当は、株主平等原則に従い、株主の有する株主の数に応じてなされるのが原則であるが、異なる種類の株式(配当優先株・劣後株、人的属性に基づき異なる取扱いを定款で定めた場合)は定めに応じて異なった扱いを受けるものとされた。
鄯一定の監査役会設置会社及び委員会等設置会社等における配当
取締役の任期を選任後最初の決算期に関する定時総会の終結の日以前までと定めている監査役会及び会計監査人が設置されている会社または委員会設置会社は、剰余金の配当を取締役会が決定することができる旨を定款で定めることができる。
これは、利益が存在している間にトラッキング・ストックや各種の株式について確実かつタイムリーに配当を行うためには取締役会に剰余金の配当権限を与えることに実益があり、剰余金の配当限度額は経営についての判断能力が必要とされるので、株主よりも取締役ができ忍であるという理由に基づくものである。
なお、かかる定款の定めが認められるのは取締役の任期が1年とされている会社に限定されているが、これによって、取締役の決定した剰余金配当の方針に反対の株主が取締役の不再任という形で自己の意思を反映しやすくなり、また、取締役会が厳しい監視に服することになる。
この点において、適切な配当が行われるよう、株主が取締役に対してコントロールを及ぼす機会が多く設けられているといえる。

(2)剰余金の配当の実質的要件
旧商法では、利益配当、中間配当、資本及び法定準備金の減少に伴う払戻し、自己株式の有償取得はそれぞれ別個の手続として規定され、上限額も異なっていたが、これらはいずれも会社の剰余金の払戻しであり、区別の実益は乏しいものであった。
そこで、会社法では、これらを「剰余金の配当等」として整理し、統一的に財源規制を設けた。剰余金の配当は分配可能額の範囲内で行うことが必要であり、分配する金銭等の帳簿価額の総額が分配可能額を超えてはならないとされている。
鄯 分配可能額の算出
分配可能額の算出は、以下のabの合計からc〜fの合計額を引いて行う。
a 剰余金の額
b 臨時計算書類につき承認を受けた場合における以下の額
 ?441条1項2号の期間の利益の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
 ?441条1項2号の期間内に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額
c 自己株式の帳簿価格
d 最終事業年度の末日後に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額
e bに規定する場合における441条1項2号の期間の損失の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
f c〜eのほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
鄱 剰余金
剰余金とは、以下のa〜dの合計額からe〜gの合計額を引いた額をいう
a 最終事業年度の末日における?及び?に掲げる額の合計額から?〜?までに掲げる額の合計額を減じて得た額
 ?資産の額
 ?自己株式の帳簿価格の合計
 ?負債の額
 ?資本金及び準備金の額の合計額
 ??及び?に掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
b 最終事業年度の末日後に自己株式の処分をした場合における当該自己株式の対価の額から当該自己株式の帳簿価格を控除して得た額
c 最終事業年度の末日後に資本金の額の減少をした場合における当該減少額
d 最終事業年度の末日後に準備金の額の減少をした場合における当該減少額
e 最終事業年度の末日後に自己株式の消却をした場合における当該自己株式の帳簿価格
f 最終事業年度の末日後に剰余金の配当をした場合における次に掲げる額の合計額
 ?配当財産の帳簿価格の総称
 ?金銭分配請求権を行使した株主に交付した金額の額の合計額
 ?基準未満株式の株式に支払った金銭の額の合計額
g e及びfに掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
また、最低資本金制度の廃止に伴って、純資産額による規制が新たに設けられ、純資産額が300万円以下の株式会社は、剰余金があっても株主に配当することはできないとされた。

(3)違法な剰余金の配当
形式的要件または実質的要件を欠く配当、あるいはその両方を欠く配当は、違法な剰余金の配当とされる。通常、違法な剰余金の配当という場合には後者を指す。
分配可能額を超えて行う剰余金の配当は無効であると解される。これは、資本維持という株式会社の基本的要請に反するためである。配当が無効となる以上、株主が得た利益は、法律上の原因を欠く不当利益となる。それゆえ、株主は会社に配当によって得た利益を返還しなければならない。
また、違法な剰余金の配当は、担保となるべき会社財産が流出することを意味する。これは、会社債権者にとって、特に重大な問題である。そこで、会社債権者は直接株主に対して違法分配額を自分に返還することを請求できるものとした。
ただ、多数の株主に違法分配額の返還を求めることは実際上困難なので、当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役・執行役等)及び株主総会・取締役会における議案提案取締役も会社に対して分配額を支払う義務が負わされている。ただ、職務執行者及び議案提案取締役の責任は過失責任であり、任務懈怠がなかったことを証明すれば義務を免れることになる。また、職務執行者及び議案提案取締役の義務は原則として免除することはできないが、総株主の同意があれば、行為時における分配可能額を限度としてその義務を免除することができる。
なお、違法配当金額を弁済した取締役等は、悪意の株主に対しては求償権を行使することができるが、善意の株主に対しては求償権を行使することができない。
剰余金の配当により期末に欠損を生じた場合、当該行為に関する職務を行った業務執行者は、その職務を行うにつき注意を怠らなかったことを証明しない限り、これを填補する義務を負う。この義務は総株主の同意がなければ免除することはできない。
このほか、取締役・執行役については第三者に対する責任も生じ得る。これは、会計参与、監査役、会計監査人についても同様で、その任務を行った場合には、会社に対する責任も生じ得る。
鄯 蛸配分
分配可能額を超えて配当することは、自分の財産を食いつぶして生き続けることであり、あたかもタコが自分の足を食べながら生きるさまになぞらえることができる。そこで、そのような配当を俗に「蛸配当」と表現することがある。蛸配当は、見かけ上の信用を維持し、金融機関からの資金調達を容易にするため、経理を不正に操作して利益金額を実際より大きく見せる粉飾決算とともに行われることが多いといえる。

(4)中間配当
取締役会設置会社は、1事業年度の途中において1回に限り取締役会の決議によって剰余金の配当(配当財産が金銭であるものに限る)をすることができる旨を定款で定めることができる。これを中間配当という。
順来、利益配当は、決算期ごとの手続を踏んで損益を確定しないと実施できず、その結果、実施できるのは年1回に限られていた。ただ、定款に定めのある場合に限り、中間配当をすることが認められていた。これに対し、会社法では、剰余金の配当は年1回に限られないこととされた。とすると、中間配当制度は不要になったとも思われるが、取締役会設置会社においては剰余金の配当の要件を緩和するものととして存続することとなった。その要件は次の通りである。
?1事業年度の途中において1回に限りであること
?配当財産が金銭であること
?配当財源が存続すること(中間配当も剰余金の配当であり、統一的な財源規制の下で行われる)
?取締役会設置会社において、取締役会決議により剰余金配当ができる旨の定款の規定があること
?取締役会決議で中間配当事項を定めること
配当財源がないのに中間配当をした場合の取締役等の責任は、違法配当の場合と同様である。

(5)建設利益の配当
従来は認められていた建設利息の制度(鉄道・水力発電・運河等、営業施設の建設に長時間を要する事業について利益がなくても配当を認める制度)は廃止された。これは、建設利益の配当は出資の払戻しないし利益の前払いにすぎず、会社債権者を害するおそれがあること、資金減少により剰余金を生じさせ、配当を行うという会社法で新たに認められた制度によっても同様の効果が得られることに基づく。

(6)株式の分配
株主への利益還元策としては、金銭による配当のほかに株式の分割がある。株式分割には、?単純に現在の1株を整数倍に分割する方法と、?剰余金を資本に組み入れ、かつ当該資本組入額を引当てとして新株を発行する方法がある。?の方法は、本来の株式の分割とは分離され、資本金の額の増加として位置づけれている。
株式の分割は、株主にとっては、分割された株式を市場で売却してして現金に換えることができるというメリットは、会社にとっては、株式取引の活発化を期待できるほか、?の場合においては、金銭の社外流出を避け、かつ資本組入れ額分だけ資本が増加するというメリットがある。
なお、株式の分割により発行済株式総数が増加するため、定款変更により発行済み株式総数を増加しなければならない場合が生じる。この場合には、株主の持分比率をぞうかしなければならない場合が生じる。この場合には、株主の持分比率を維持するため、2種類以上の株式を発行している会社を除き、株主総会の特別決議によらずに発行可能株式総数を増加する定款変更が認められている。