【第二章 第4節:資金調達】1.資金調達の方法

1.資金調達の方法(1−18,2−46)
会社を経営するには、運転資金、設備投資費や研究開発費等常に資金調達が問題となる。資金調達が問題となる。資金調達の方法としては、企業の業務活動の中から生まれる内部資金(会社の利潤等)を利用する方法と会社の外部から資金を調達する方法がある。
また、資金は、企業が返済する義務を負うか否かにより、自己資本(返済義務を負わない場合)と他人資本(返済義務を負う場合)に分けられる。株式の発行による払込金と内部資金は自己資本に、社債や借入金は他人資本にあたる。

2.募集株式の発行(1−19,2−47)
(1)募集株式の発行とは何か
学問上、株式会社の発行済株式総数が増加する場合を総称して新株発行という。新株発行のうち資金調達を直接の目的とし会社法199条以下の手続に従って行われるものを通常の新株発行と呼び、その他のもの(例えば、株式無償割当、吸収分割、株式交換等の場合における新株発行等)を特殊の新株発行と呼ぶ。
会社法は、前者の通常の新株発行とこれと同様の経済的効果を有する自己株式の処分とを併せて募集株式の発行等として、同一の規律に置くこととした。

(2)会社設立時の株式発行と成立後の株式発行との比較
募集株式の発行は、資金調達のために行われるものであるが、株主(社員)の増加、資本の増加を伴い、実質的にみると、会社の人的・物的規模が拡大する現象と捉えられ、あたかも会社の一部設立のような観を呈する。そして、会社設立時の株式発行と設立後の株式発行とでは、多くの共通点が見出せる。例えば、資本充実を図るための制度、具体的には、金銭出資の全額払込み・現物支給の全部給付、現物出資の調査等、現物出資者等の差額支払義務等が定められている点で共通する。
もっとも、会社設立時の株式発行と成立後の株式発行とでは、次の表に見られるような相違点もある。

(3)募集株式発行の方法
募集株式の発行は、割当てる相手方により、株主割当てとそれ以外の募集株式の発行に分けられる。
募集株式は、おおまかにいって、募集事項の決定、募集手続の通知、募集株式の申込み、募集株式の割当て、出資の履行という手続を経て発行される。そして、募集株式の引受人は、所定の払込期日・払込期間に出資の履行(金銭の払込・現物出資の給付
をすることにより、当該払込期日(払込期日を定めた場合)または当該履行をした日(払込期間を定めた場合)から株主となる。

(4)既存株式の保護
株主割当て以外の募集株式の発行手続では、既存株主は、?持分比率の低下により支配力が低下し、さらに?発行価格が時価を下回る有利発行がなされると、株価下落による経済的損失を被ることになる。
このような不利益を防止するため、非公開株式については、募集株式の発行等の際に、株主総会の特別決議を要求している。
他方、公開会社については、既存株主の経済的損失の面については、特に第三者に対する有利発行についてのみ、株主総会の特別決議を要求して既存株主の利益保護を図っている。これは、持分比率の低下については、株式譲渡自由の原則の下、市場で株式を調達して回復を図ることが可能だからである。

(5)違法・不公正な発行による株主の救済
違法・不公正な発行による株主の救済手段としては、会社法上、次のような手段がある。
鄯 募集株式の発行等差止請求権
会社が法令や定款に違反し、または、著しく不公正な方法により募集株式の発行・自己株式の処分をすることによって株主が不利益を受けるおそれがある場合、株主は、会社に対して募集株式の発行・自己株式の処分の差止めを請求することができる。違法・不公正な発行等により、損害を受ける株主の保護を図る制度である。
鄱 不公平な価格で引き受けた者の責任
取締役と通諜して、著しく不公正な払込価格で引き受けた者は、不公正な払込価格と公正な払込価格の差額を支払う義務を負う。
鄴 新株発行無効の訴え及び自己株式処分無効の訴え

3.新株予約権(1−20,2−48)
新株予約権とは、株式会社に対して行使することで当該会社の株式の交付を受けることができる権利をいう。
平成13年の商法改正によって新設され、従来の自己株式購入権(ストックオプション)は新株予約権に含まれ、さらに付与の対象者は会社の取締役または従業員以外にも拡大されることとなった。
新株予約権の発行は、公開会社では取締役会で、非公開会社では株主総会特別決議で決定する。ただし、公開会社においても、株主以外のものに対して特に有利な条件をもって新株予約権を発行するには株主総会特別決議が必要である。これは募集株式の有利発行と同様、既存株式の有利発行と同様、既存株主の保護を図った趣旨である。
また、会社法により、取得条項付新株予約権が規定された。これは、株式会社が、一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得できるとするもので、いわゆるポイズン・ピルとして敵対的買収に対する防衛策とすることもできる。

4.社債(1−21,2−49)
(1)社債
社債とは、会社法の規定により会社が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、会社法の定めに従い償還されるものをいう。
社債は公衆から長期・多額の資金を調達する手段として株式と共通している。しかし、株式が会社の社員たる地位であるのと異なり、社債の性質は会社に対する金銭債権にすぎない。したがって、社債は期限到来時に償還が予定され、また配当可能利益の有無に関わらず一定の利息を受け取ることができる。
なお、従来、有限会社は社債を発行できないと解されていたが、会社法は、株式会社のみならず、持分会社社債を発行できることとした。

(2)新株予約権社債
新株予約権社債とは、新株予約権を付した社債をいい、新株予約権と同様の手続により発行される。
新株予約権社債は、新株予約権社債とを分離して譲渡・質入をすることはできず、その発行は登記事項とされている。

(3)社債市場
社債は、かつては担保付社債が原則であったが、最近では優良企業は無担保の普通社債を発行することも認められており、また無記名社債が大部分を占めている。
この他に、金融機関の自己資本増強策に利用されている社債として劣後債がある。これは、上位債権者が自己に先立って債務の弁済を受けることを承諾する劣後特約を付した社債の総称である。会社法には劣後債に関する規定がないため、発行はすべて海外で行われる。普通社債よりコスト高であるというデメリットはあるが、行政当局の判断により自己資本として取り扱うことが可能であるというメリットもある。

5.その他の資金調達方法(1−22,2−50)
(1)コマーシャルペーパー
コマーシャルペーパー(CP)は、日本特有の企業が短期資金調達のため日本国内で発行する短期無担保の約束手形である。国内CPを発行するには、?期間が1年未満であること、?付利方式は割引方式とすること、?額面は1億円以上であること、のすべてを備える必要がある。また、これを発行できるのは優良企業(無担保普通社債発行適格企業及び一般担保付社債発行企業で上場しているもの)に限られる。
CPは発行企業が銀行・証券会社を通じて販売し、これを購入した投資家は、一般の約束手形と同様取引銀行に取引委任することができる。つまり、CPは、機能的には社債であるが、法的性格は約束手形といえる。
このようにCPは約束手形であることから、従来はその権利の発生・移転・行使には券面が必要とされ、そのために発行・保管・売買等に際してのコストとリスクが大きいとされていた。そこで、CPのペーパーレス化を図ること等を目的として「社債等の振替に関する法律」が施行された。
同法は、?契約により社債の総額が引き受けられるものであること、?各社債の金額が1億円を下回らないこと、?元本の償還について、社債の総額の払込のあった日から1年未満の日とする確定期限の定めがあり、かつ、分割払のの定めがないこと、?利息の支払期限を?の元本償還期限と同じ日とする旨の定めがあること、?担保付社債信託法の規定により担保が付されるものでないこと、という要件を満たすものを短期社債と定義しているが、この短期社債は、振替機関もしくは口座管理機関に解説される取引参加者が振替口座簿への記載・記録により、権利の発生・移転・行使の効果が発生する。CPも短期社債の要件を満たす形で発行されることがある。したがって、この要件をみたし短期社債に該当する限りで、券面を発行することなく、その権利の発生・移転・行使の効果を発生させることができる。

(2)金融機関等からの資金調達
委員会設置会社を除く取締役会設置会社においては、多額の借入には、取締役会決議が必要である。
金融機関等からの資金調達としては、当座貸越、預金担保借入、商業手形担保借入、商業手形割引、不動産担保借入等による短期・長期の借入金がある。
借入機関が1年以下の借入れの短期借入れといい、この場合は、金融機関を受取人とする約束手形を振出す方法によることが多いといえる。ただし、商業手形割引は、受取手形を金融機関に裏書譲渡する方法で行われる。また、借入機関が1年長の借入れは長期借入れといい、この場合は、金融機関との間で金銭消費借入契約を取り交わすことが多い。
また、売掛金の早期資金化のために売掛金債権をファクタリング会社に譲渡する譲渡債権も資金調達の一方法である。