【第2章 会社の運営】3.企業規模の拡大と企業統合

1.M&A(1−11,2−39)
M&A(mergers and acquistions)とは、狭義では、企業の買収と合併のことをいう。企業を効率化するために不要な事業部

門を売却し、また高い技術を持つ企業を買収して競争力を高める等、企業の活性化を図る手段として注目を集めている。
M&Aの手法としては、株式取得や事業譲渡により買収を図る形態、また2社以上を統合する合併がある。その他、業務提携の

補完としての株式の持ち合いや、共同して合弁会社を設立する等の形態も、広い意味でのM&Aに含めることがある。

2.株式の取得(1−12,2−40)株式取得は、他の会社を支配するためのもっとも協力な方法である。株式を取得するこ

とで、その会社を子会社化し、また強い影響力を行使することができるようになる。取得する株式の種類によっては、通常の株

式取得に比べてより強い影響力を行使することも可能である。
株式取得の方法としては、?既に発行されている株式を取得する場合と?新たに発行される株式を取得する場合とがある。

3.事業譲渡(1−13,2−41)
事業とは、一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の総体をいう。事業譲渡とは、この有機的一体

をなす財産を、一体として譲渡することである。また、その結果譲渡会社がその譲渡の限度に応じて競業避止義務を負う結果を

伴うものをいう。
企業は、事業譲渡によって、ほぼ合併と同様の効果をあげることができる。ただし、合併のように、相手企業の法人格を引き継

ぐことはなく、譲渡会社、譲受会社ともに別法人として存続する。
事業譲渡では、法人格が引き継がれないので、思わぬ簿外債務等を承継するリスクは低く抑えることができる。しかし、個々の

財産についていちいち移転の手続を要し、大きな手間がかかることになる。

4.合併(1−14,2−42)
(1)合併の意義
合併とは、2つ以上の会社が契約により1つの会社に合同することをいう。合併は、企業規模拡大のための最も効果的・効率的

な手段である。経済的には、経営の合理化や高い技術力を有する会社を吸収して競争力を強化するなどの目的で行われる。最近

では、金融機関などにおいて、救済のための合併が行われることもある。

(2)合併の種類と効果
合併には吸収合併と新設合併の2種類がある。
吸収合併とは、会社が他の会社とする合併で、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるも

のをいう。これに対し、新設合併とは、2つ以上の合併がする合併で、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により

設立する会社に承継させるものをいう。
合併では、当事者の全部または一方が解散し、それと同時に新会社の設立、または存続会社による募集株式の発行等が行われる

。解散会社の株主は、通常は新たに設立された会社または存続会社の株主となる。もっとも、合併の対価については従来、存続

会社等の株式を必ず交付しなければならないと解されてきたが、会社法で柔軟化が図られた。会社法では対価として、金銭・存

続会社の親会社の株式や持分に加え、子会社による親会社株式取得禁止の例外が認められたため、いわゆる三角合併が容易にな

った。また、解散会社の財産も当然に新たに設立された会社または存続会社に包括承継される。なお、解散会社には、解散によ

って直ちに消滅し、清算の手続を要しない。
企業規模が大きく異なる会社間や親会社間では吸収合併が選択されるのが一般であるが、企業規模が同じ程度の会社間であって

も吸収合併が行われることが多く、新設合併はあまり行われていない。これは、新設合併では、合併当事会社が有していた営業

許認可が新設会社に継承されず、上場会社が合併しても新設会社は別途新たに上場手続を採らなければならない等、費用・手間

がかかるためである。

5.親子会社(1−15,2−43)
会社法では、従来の「議決権の過半数」という形式的な基準に基づいて親子会社関係が認められる場合に加え、「財務・事業の

方針の決定を支配している場合」という実質的な基準により親子会社関係が認められる場合が定められた。また、従来、親会社

となるのは株式会社のみであり、子会社となるのは持株会社や組合等の事業体も親会社・子会社に含まれ得ることとなった。
なお、子会社の子会社であるいわゆる孫会社も会社法上は子会社に含まれる。
(1)親子会社の弊害防止のための規制
親子関係においては、親会社やその取締役の利益のみが重視され、他の利害関係人、特に子会社の株主や債権者等が害されるお

それが生じる。そこで、次のような親子関係の弊害防止のための規制を設けている。
鄯 親会社支配の公正を確保するための制度
 ・子会社による親会社株式の取得制度
 ・子会社が保有する親会社株式の議決権行使の制限
鄱 子会社を利用した粉飾決算等防止のための制度
 ・親会社株主の子会社に対する書類閲覧謄写請求権
 ・親会社の会計参与・監査役・会計監査人・監査委員会による子会社に対する報告請求権、調査権
 ・親会社の検査役による子会社の業務、財産状況の調査権
 ・親会社会計参与・監査役・会計監査人の子会社取締役、執行役及び使用人との兼任の禁止
 ・連結計算書類作成義務

(2)株式交換
株式交換とは、株式会社が発行済株式の全部を他の株式会社または合同会社に取得させることをいう。株式交換によっても完全

親子会社関係がもたらされるだけであり、消滅する会社はなく、各当事会社の財産も変動しない。
子会社となる会社の株主の側から見ると、事故の株敷居を親会社へ移転しその代わり親会社の株式を割り当てられることになり

、株式の交換がなされているようにみえる。
なお、事業譲渡の場合と同様、簡易手続・簡略手続の要件を満たす場合には、株主総会の特別決議は不要となる。
また、会社法では株式交換についても対価の柔軟化が認められたため、株式交換完全親会社の責任財産が変動する場合があると

して、一定の場合には会社債権者保護手続が要求されることになった。

(3)株式移転
株式移転とは、1つまたは2つ以上の株式会社が発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう。株式移

転によっても完全親子会社関係がもたらされるだけであり、消滅する会社はなく、各当事会社の財産も変動しない。
株式移転の手続は、株式交換の場合とほぼ同様である。

6.会社分割(1−16,2−44)
a 会社分割の種類
?新設分割と吸収分割
会社の分割方法には、新設分割と、吸収分割の2つの方法がある。
新設分割とは、1または2以上の株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割により設

立する会社に承継させることをいう。
新設分割は、複数の営業部門を有する会社が、各営業部門を独立した会社とすることにより、経営の効率性を向上させるために

利用することが見込まれる。
吸収分割とは、株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割後他の会社に承継させるこ

とをいう。この手法は、持株会社の下にある複数の子会社の重複する部門を、各子会社に集中させることにより、組織の再編成

を実現するために利用することが見込まれる。
?物的分割(分社型)と人的分割(分割型)
旧商法においては、新設分割と吸収分割のそれぞれについて、物的分割(分社型)と人的分割(分割型)が存在していた。会社

分割では、営業を承継する新設会社または承継会社が、承継する営業に見合った株式を発行する。その分割を分割会社に割り当

てる場合を物的分割、分割会社の株主に割り当てる場合を人的分割と呼んでいた。
しかし、対価柔軟化(組織再編行為を行う際に、株式以外の金銭等を対価として交付することが認められたこと)によって人的

分割についても財源規制を横断的にかける必要が生じたため、会社法は、改正前商法のいわゆる人的分割を「いわゆる物的分割

+剰余金の現金分割」という構成にし、法文上「人的分割」概念はなくなった。

7.企業提携(1−17,2−45)
企業提携には、株式の取得による資本的提携、合弁会社の設立、パートナーシップ、ライセンス供与等様々な形態があるが、い

ずれの場合も提携企業間では一方企業の相手方企業に対する全面的な支配関係は形成されないのが通常である。
企業提携に際しては、通常、提携業務内容に即した契約書が作成される。特に、外国の会社と契約を締結するときは、相手国の

法制度・法習慣及びビジネス行動の調査、経済変動の可能性の調査等を十分行い、契約条項の整備等によりリスクを極力回避す

る必要がある。また、業務提携契約の内容に関しては、独占禁止法外為法、その他関係国の法令に反しないようにしなければ

ならない。
なお、合弁会社の設立は、出資会社と合弁会社との間に資本関係を通じた親子会社関係あるいは関係会社関係(親子会社関係に

至らない程度の資本関係が構築される場合)が生じるが、合弁会社に対する支配力は、多くの場合、出資会社の出資比率によっ

て決まることになる。ただし、出資比率はその国の法律によって制約される場合がある。