【第三章 第2節 特許権】

1.特許法(1−25,2−53)
特許法は、発明の保護と利用の調和を図ることによって、産業を発展させることを目的としている。つまり同法は、一方で発明者に特許権という独占的な利用権を与えることで発明を促すとともに、他方で発明内容を開示させ一定期間経過後には誰でも利用できるようにすることで、産業を発展させることを目指している。
特許法によって与えられる特許権とは、発明(=自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの)を独占排他的に利用する権利をいう。発明には、?物の発明、?方法の発明、?物を生産する方法の発明の三種類がある。これらのどの種類にあたるかによって、特許権の効力を画する実施行為が異なる。たとえばプログラムを含む物の発明については、ネットワークを通じた配布を含む物の譲渡などが実施行為となる。これに対して方法の発明については、その方法を使用する行為が実施行為となる。物の発明の物にプログラムが含まれ、譲渡にネットワークを通じた配布が含まれるとされたのは、プログラムなどIT技術に関する特許保護教科の要請やネットワークを利用した取引促進の要請が社会的に高まっているからである。

2.特許要件(1−26,2−54)
特許権を与えられるためには、?産業上利用可能性、?新規性、?進歩性からなる特許用件を満たす必要がある。仮にこれらを欠く発明に特許権が与えられても、無効審判により遡及的に特許権がなかったものとされてしまう。

(1)産業上利用可能性
一般産業として実施できない発明には、産業上利用可能性を欠くものとして、特許権が与えられない。それは、特許法特許権を与える目的は、産業に役立つ発明を促し産業を発展させることにあるからである。

(2)新規性
すでに社会に公開されている発明には、新規性を欠くものとして、特許権が与えられない。それは、特許法特許権を与える目的が発明を公開させることで産業を発展させることにあるからである。
新規性を欠くとされるのは、発明が特許出願前に日本国内または外部において、?公然と知られている場合(公知)、?公然と実施された場合(公用)、?刊行物に記載された(刊行物公知)またはインターネット等を通じて公衆が利用可能となった場合、である。
ただし?〜?の場合(新規性の喪失)でも、例外的に特許が受けられることがある。
なお先行技術文献情報の開示制度の導入により、出願時に出願人が知っている先行技術文献情報を開示しなければ、出願を拒絶されることとなった。これにより新規性判断が一層実効的になされることが期待されている。

(3)進歩性
当事者が出願時における技術水準から容易に考え出すことができる発明には、進歩性を欠くものとして、特許権が与えられない。ある程度高度な発明でないと、産業を発展させるために役立たないからである。

3.特許を取得する手続(1−27,2−55)
?出願:「願書」+「明細書」を特許庁に提出する
 ↓
?出願公開:出願日から1年6ヶ月後に「公開特許広報」に自動的に掲載される(出願公開制度)
 ↓
?審査請求:出願日から3年以内に「出願審査請求書」を提出し、出願内容の審査を開始してもらう
 ↓
?審査:審査請求に基づいて、審査官が特許してよいかどうか審査する
 ↓
?特許査定:審査の結果、特許して良いとの判断がなされる
 ↓
?特許料納付:定められた特許料を納付する
 ↓
?設定登録:特許登録原簿に設定登録し、ここではじめて特許権が発生し、特許証を交付してもらう
 ↓
?特許広報掲載:特許権の内容が「特許広報」に掲載される

(1)出願
鄯 特許を受けられる者
特許出願は、「特許を受けようとする者」がなす。特許を受ける権利は原始的には発明者に帰属するので、まず発明者が特許を出願することになる。ただし、特許を受ける権利は移転することができるので、この権利を譲り受けた第三者(承継人)も特許出願ができる。この場合特許権は、承継人のものとなる。
企業の従業員などが職務に関してなした発明を特に職務発明という。この場合も原則通り特許を受ける権利及び特許権は、発明者である従業員のものとなる。ただし、発明に対する企業の貢献も大きいので、企業など使用者には発明を実施する権利(通常実施権)が認められる。実務上は、契約や職務規則などによって使用者に特許を受ける権利または特許権を譲るように定めているのが通常である。
鄱 特許出願の手続
特許出願に際しては、?願書、?発明内容を記載した明細書、?必要な図面、?発明の概要を記載した要約書、を提出する必要がある。
ただし?図面の提出は任意である。特許庁は、これらをパソコンで提出する「パソコン出願」を勤めている。
同一の発明について2つ以上の出願がなされた場合には、一番早い出願人が優先される(先願主義)。

(2)出願公開
鄯 出願公開制度
特許出願の内容は、出願日から1年6ヶ月経つことで自動的に「公開特許広報」に掲載され、公衆に公開される。これを出願公開制度という。出願公開制度は、第三者が重複して出願や開発投資をすることを防ぎ社会的な損失を減らすことを目的としている。また第三者に早期に新たな発明のための情報を提供するという効果もある。ただ出願内容の公開によって第三者に発明を事由に利用されてしまうと出願者に不利益となる。そこで出願者は、発明を利用した第三者に、一定の補償金の支払を請求できる。このような請求を早く得るために、出願人は早期の出資公開を請求できる。

(3)出願審査請求制度
出願審査請求制度とは、特許出願とは別に、出願から3年以内に、出願審査請求の手続をした者についてのみ審査を行う制度をいう。
これは、いわゆる防衛的出願など特許取得の意思がない出願の審査を省き、審査の効率を向上させることを目的としている。出願審査請求は、特許出願者に限らず、誰でも行える。

(4)審査
新規性などの特許要件を満たすか審査する。

(5)特許査定
拒絶理由がないと特許査定がなされる。

(6)特許料納付
特許権設定の登録を受ける者は、特許権の対価として、特許権を納付しなければならない。

(7)設定登録
特許権は、特許登録原簿に設定の登録をすることにより発生する。

(8)特許広報掲載
特許広報の発効日から6ヶ月の間は、第三者による特許異議の申立がなされる可能性がある。申立に理由があると判断されると特許が取消される。

4.実施権設定制度(1−28,2−56)
特許権は、発明を排他的独占的に利用できる権利がある。よって特許権を有しない第三者は、発明を利用できないのが原則である。ただ第三者が実施権を有する場合には例外的に特許発明を利用できる。実施権は、通常、特許権者と実施権間の設定契約(実施許諾契約)によって発生する、また、一般には、技術提携・技術指導などが行われる場合に、この実施許諾契約が締結される。実施権には、?専用実施権、?通常実施権、?独占的通常実施権といった種類がある。なお特許権者をライセンサー、実施検車をライセンシーと呼ぶ。

(1)専用実施権
専用実施権とは、特許発明を実施する権利を与えられた者(専用実施権者)が、契約で定めた範囲において、特許発明を独占排他的に実施することができる権利である。この権利は独占排他的なものなので、実施権設定後は特許権者も特許発明を実施できず、同一範囲について重ねて実施権を設定するものもできない。なお専用実施権は、特許庁に設定登録されることで発生する。

(2)通常実施権
通常実施権と専用実施権の大きな違いは、?実施権者(通常実施権者)に独占排他的な権利がないことと、?特許庁への設定登録を行わなくてもよいこと、である。
独占排他的な実施権でないので、特許権者は実施権設定後も特許発明を利用できるし、同一内容の実施権を重ねて設定することもできる。

(3)独占的通常実施権
独占的通常実施権とは、通常実施権の設定に際して、他社に対して同一内容の実施権を重ねて設定しない旨を合意した通常実施権をいう。法律上は通常実施権と同一なので?実施権者は独占排他的な実施権を有せず、?特許庁への登録も必要ない。

5.特許権の侵害に対する措置(1−29,2−57)
特許権者以外の者が正当な理由や権原を欠くのに特許発明を実施すると、独占排他権である特許権が侵害されたことになる。このような権利侵害については、民法に救済規定がある。しかし特許権は権利の客体が無体物であるという特殊性を有するため、有体物を予定している民法の救済規定では十分な救済がなされている可能性がある。そこで特許法は、特許権侵害に対する救済措置について特別な規定を置いている。

(1)民事的救済手段
民事的な救済手段としては、?差止請求、?仮処分の申立、?損害賠償請求、?不当利益返還請求、?信用回復措置の請求などがある。
そして特許権者の権利行使を容易にしその保護を図るために、侵害者に対する侵害様態の明示義務、損害額計算のための鑑定人制度の導入、裁判所による損害額の認定、損害賠償請求訴訟における損害額・過失の推定などの規定がある。

(2)刑事的な責任追及
特許権侵害には刑罰が科される。これによって特許権侵害行為が抑制され特許権者の保護に繋がる。

6.共同発明(1−30,2−58)
共同開発とは、2人以上の者が実質的に協力して発明を成立させることをいう。これは、開発費の抑制などの理由から企業同士が協力して商品を開発する場合などに行われる。発明は技術的思想の創作なので、共同発明者かどうかは創作活動に関与したかどうかという観点から判断される。
共同開発においては、特許を受ける権利・特許権が共同発明者の共有となる。たとえば共同で出願しなければ、拒絶される。また、持分の譲渡、実施権の設定などを行うには、他の共同発明者の同意が必要となるが、各共同者が自ら特許発明を実施する場合は、他の共有者の同意を得る必要はない。