【第4章 取引関係 第一節 さまざまな取引】

1.売買取引
(1)売買取引の類型
会社が関係する取引の中心となるのが売買取引である。商品を売ったり勝ったりするのは、すべてこの取引に含まれる。

(2)売買取引の特徴
企業間での製品や原材料の売買取引では、固定された取引の相手方との継続的取引が中心である。
これは安定的な商品供給が期待でき、商品の仕様に関する詳細な指示が可能であるという、両当事者にとってのメリットがあるからである。

(3)契約の成立
鄯 契約準備段階の信義則
契約は、申込の意思表示と承諾の意思表示が合致することによって成立する。
しかし、通常の契約関係は、交渉を通じて徐々に形成されていくものであり、両当事者の意思表示によって突然出現するものではない。契約交渉という準備段階であっても、当事者間に一種の信頼関係が形成され、互いにこれを裏切ることなく、誠実に交渉を行う義務が発生するものと考えられる。
鄱 一時的取引と継続的取引
一時的取引の場合、契約成立のためには、取引の都度、申込と承諾の意思表示が合致する場合がある。しかし、継続的取引では、より迅速・簡便に契約が成立するように工夫されているのが通常である。
鄴 申込を受けた商人の受領物品保管義務
商人は自己の営業の部類に属する契約の申込を受け、それとともに受け取った物品がある場合、申込を拒絶した場合でも、その物品を保管する義務を負う(受領物品保管義務)。ただし、物品の価格が保管費用に足りないとき、または商人がその保管により損害を受けるおそれがある場合はそうした義務を負わない。

(4)契約書の作成
法律上、契約書を作成しなくても売買契約は成立する。しかし、トラブルを回避するためには取引条件を明確にする必要があり、そのためには契約書を作成しておくことは重要である。契約書に記載すべき事項としては、次のようなものがある。
 ?売買の目的物の内容
 ?引渡条件
 ?売買代金額・支払条件

(5)債務不履行
売買取引では、買主の代金不払いのほか、買主が売買目的物の受領を拒む、買主が目的物の引渡しをしない、契約の趣旨に沿わないものを引き渡すといったトラブルが生じることがある。このように、債務の本旨に従った履行が無い場合を債務不履行と呼ぶ。
債務不履行という語は、?本旨に従った履行がなされないすべての場合をさす場合と、?特にその不履行が債務者の責に帰すべき事由によって履行されない(できない)ことをさす場合(狭義)とがある。

(6)代理店・特約店契約
鄯 取引の特徴
わが国では、代理店・特約店(他に販売店・取扱店・販売特約店)などあまり区別して用いることはない。しかし、厳密には、代理店と特約店(ないし販売店)は区別することができる。
代理店とは「Agency」(代理人)であり、本人のために代理・媒介を行う。代理店の営業活動の結果、契約の当事者となるのは、本人(Principal)とその顧客である。代理店は、契約締結を代理・媒介することによって決められた手数料を受け取り、これが代理店の利益となる。例えば、保険代理店や旅行代理店などが、この代理店の典型である。
特約店(ないし販売店)と呼ばれる者は、本人から完全に独立した商人で、本人のために代理・媒介をするわけではない。特約店は、一定の特約店ないし販売店契約(Distributorship Agreement)を締結し、この契約に定められた条件。方法で商品を仕入れ、自己の名義と計算で販売する。特約店の営業活動の結果、契約の当事者となるのは、特約店(ないし販売店)と顧客である。特約店(ないし販売店)の利益は、仕入れ価格と販売価格の差額となる。
わが国では、代理店といいながら、実は単なる特約店である場合が多いようである。英語でははっきり区別されるので(AgentとDistributor)、国際取引で安易にしようすることは慎むべきである。
鄱 フランチャイズ契約
特約店の特殊な契約としてフランチャイズ(Franchise)がある。フランチャイズ契約は、フランチャイジー(加盟店)とフランチャイザー(本部)との間における継続的取引契約である。
フランチャイズ契約では、?フランチャイジーフランチャイザーの商標、サービス・マーク等を利用して、同一イメージのもとに営業を行う権利を与えられ、?フランチャイジーフランチャイザーから一定のノウハウ・アドバイス及び商品の供給等を受け、?その見返りとしてフランチャイザーが一定の対価(ロイヤリティー、権利金)を受け取る、という仕組みになっている。
このシステムを利用すると、フランチャイザーは、フランチャイジー保有する土地、建物等の資源を利用しつつ、少ない資本で他店化を図ることができる。一方、フランチャイジーにとってもフランチャイザーの豊富なノウハウや強力なブランド力を背景に安定した事業を営むことが可能になる。
フランチャイズシステムは、コンビニエンスストア、居酒屋などの小売業・サービス業で近年広く見られる形態となっている。
鄴 売買型の特約店契約
特約店を利用する場合、商品供給業者と特約店の間に反復・継続的な商品取引契約が生じる。このような継続的商品取引関係では、まず基本契約が締結され、その後の個別契約関係は、基本契約に基づいて簡便に処理されることになる。
基本契約に定められる条項としては、次のようなものがある。これらの契約条項のなかには、テリトリー条項、一手販売権、再販価格条項等、独占禁止法に抵触しかねないものも存在するので、注意が必要である。
こうした基本契約書は、通常、商品供給業者があらかじめ浮動文字で作成した雛形が利用される。商品供給業者は、同種の取引をいくつも締結するので、あらかじめ雛形を用意して定型的に処理することが便宜だからである。その意味で基本契約書は約款的性格を有する場合がある。
しかし、こうした雛形の利用は、相手方(特約店)にとって不利な条項が一方的に設けられるおそれがあるという問題をはらんでいる。あまりに一方に不利な条項については、契約自由の原則を修正として、その効力が否定されることがある。

(7)委託販売契約
委託販売契約は、商品供給者(委託者)が販売担当業者(受託者)に商品の販売を委託し、これに対して商品供給業者が報酬(手数料)を支払うことを約する契約である。販売担当業者は自ら当事者として顧客と契約を締結するが、その結果生じた損益は商品供給業者は自ら当事者として顧客と契約を締結するが、その結果生じた損益は商品供給業者に帰属する。
いたく販売契約は、商品供給業者が販売担当者に、商品の販売を委託するもので、委任契約の一類型である。この販売担当業者は、「問屋」にあたる。
問屋とは、自己の名をもって他人のために物品の販売または借入をなすことを業とする者である。すなわち、問屋では、委託者のために、自分が契約当事者となって自分の名義で契約を締結し、問屋と委託者の内部関係において、契約の効果が委託者に帰属する。
問屋を利用すると、委託者は自ら契約の当事者にならずに(問屋のノウハウや人脈を利用して)、実質的に契約当事者になったのと同一の効果を手に入れることができる。
代表的な問屋としては、証券会社を挙げることができる。

(8)消費者契約
企業(商人)が直接消費者へ商品やサービスを販売、提供する取引を消費者契約という。
消費者契約においてはさまざまな特別法が制定され、消費者の利益保護が図られている。それでもなお足りない場合、判例公序良俗や信義即などの一般条項を用いて解決している。
契約は、原則として申込みと承諾の合致があったときに成立する。契約書の作成も原則として不要であり、いったん契約が成立すれば、当日はこれに拘束される。
しかし、消費者契約においては、特別な考慮が必要となる。
鄯 クーリング・オフ
消費者契約のうち、割賦販売及び訪問販売については、一定の場合(指定商品について契約した場合で、一定期間内)に消費者が契約申込の撤回あるいは契約の解除(クーリング・オフ)を行うことができる。
割賦販売・訪問販売の業者は、申込書面または契約書に、赤枠の中に8ポイント以上の赤字の活字によって、消費者にはこの権利がある旨、記載しておかなければならない。
鄱 約款
消費者契約も私法上の契約であり、当事者の合意によって契約は成立する。消費者契約においては、予め企業側が作成した約款(普通取引約款)が契約の内容として用いられることが通常である。
このような消費者契約においては、ほとんどの場合契約条件についての個別的な細かい交渉の余地なく、すでにできあがった契約条件をそのまま受け入れるという形で成立する。また、ほとんどの場合、消費者は約款の内容について感心さえない。
約款は企業側が一方的に、自らに有利なように作成し、それによって消費者が不利益を被る場合も少なくない。そこで、不当・不公正な内容をもつ約款に対して消費者に適切な保護を与えることが必要になる。