2.更生手続開始のための要件(2−2)

会社更生手続の対象となるのは、株式会社だけである。
次にあげる開始原因があり、かつ、消極的な開始原因として申請棄却自由がないことが、更生手続の開始要件となる。

(1)開始原因
?事業の継続に著しい支障をきたすことなく、弁済時にある債務を弁済することができないこと
会社整理の開始原因をさらに広げたものをいえ、単なる現金の一時的な不足では足らないが、破産の場合のような、支払い不能、または債務超過の状態に至るまでの必要はない。すなわち、弁済しようとすればできなくもないが、そうすると、将来の事業の継続がかなり困難となる場合のことであり、例えば、弁済の資金調達のため、製品の投げ売りをしなければならないような場合がこれにあたる。
?破産原因たる事実の生じる虞れがあること
事態がそのまますすめば、高い確率で、支払不能で、または債務超過の状態になるであろうと考えられる場合のことであり、例えば次回の手続の決済ができないような場合をいう。

(2)申請棄却自由
?当該企業が、会社更生法という大掛かりな手段を取って再建するに価する必要性を有しないこと
 規定の上では、株式会社であれば、規模の大小を問わないことになっているが、この必要性の判断を通じて、対象とする株式会社の範囲に制限を加えるべきとするのが一般的な考え方である。
?事業の継続を内容とする更生計画案の作成もしくは可決の見込みまたは事業の継続を内容とする更生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき
 旧法では「再建の見込みがないとき」という規定であったが、再建の見込みを裁判所が判断せねばならないことが、申立から開始決定まで時間がかかる要因とされた。したがって、新法では更生計画案の作成もしくは可決という手続事項を判断の対象として、更生手続の迅速化を図ろうとしている。
?手続開始の申立が、真に当該企業の再建をめざした誠実なものといえないこと

3.更生手続開始の手続(2−3)
(1)更生申立権者
更生手続開始の申立権者は、次のとおり。
 ?会社
 ?資本の10分の1以上の債権を有する権利者
 ?発行済株式総数の10分の1以上の株式を有する株式
ただし、申立権者のうち、会社は、開始原因のいずれがある場合にも申立権を有するのに対して、債権者・株主は、開始原因のうち、破産原因たる事実の生じる虞れがある場合でなければ申し立てることができない。

(2)更生申立の方法
更生手続の申立は、書面をもってなし、更生手続開始原因を疎明しなければならない。
更生手続開始を申し立てるときには、手続費用として、予納金を納付しなければならない。納付を怠ると、申立は棄却される。

(3)更生手続開始前の措置
更生手続の開始申立がなされても、すぐに開始決定がなされるわけではない。そこで、この間における会社財産の散逸を防ぎ、将来の会社再建にそなえるために、中止命令、保全処分の制度が用意されている。
鄯 中止命令
裁判所は、更生手続開始の申立があった場合において、必要があると認めるとき、申立または職権により、会社に対して行われている他の倒産手続(破産、民事再生、整理、特別精算)、強制執行、仮差押、仮処分、担保権の実行としての競売、収益実行、訴訟手続、滞納処分の中止を命じることができる(ちなみに、更生手続が開始されれば、当然に中止される)。
なお、他の倒産手続では、規定の上から、こうした中止命令が可能か否か、争いがあるところであるが、更生手続ではこのように、立法的に解決されている。
鄱 保全処分
裁判所は、申立または職権により、会社の業務および財産に関する保全処分、保全管理人による管理命令、監督員による監督命令を発することができる。
このうち、保全処分は、債務弁済禁止、借財禁止、重要財産の処分禁止を内容とするものが多く利用され、これらは、定期的保全処分とよばれている。
鄴 包括的禁止命令
包括的禁止命令とは、裁判所にすでに係属している手続を個別的に中止するのと異なり、禁止の目的とする財産、対象となる債権者・手続の種類、手続の時期に関わらず全て一律に、包括的に禁止する措置のことをいう。これは、個別の執行が多数行われることで手続が煩雑になり、再生債務者の継続に支障をきたし、もって、再生手続が開始されてもその目的を果たすことが困難になってしまうことを防止するために設けられた制度である。
鄽 更生手続開始前における担保権消滅請求
改正法では、更生会社(保全管理人)は、更生手続開始決定前であっても、更生会社の事業の継続に欠くことができない財産に属する担保権(特別の先取特権、質権、抵当権、商事留置権)について、裁判所の許可を得て、当該財産の価値相当額を弁済してその担保権の消滅を請求できる制度が導入された。