【院の願書】複数人による問題解決と認知心理学について

 私は、複数人による問題解決と、そこにおける認知心理学の役割について、研究したいと思う。

 なぜ、このテーマを選んだかというと、現今の数学において、特に高校数学においては、大学受験のための数学、という意識が離れきれない。また、その問題を解くということも、個人レベルでの問題解決しか、扱うことができない。問題を解くこと自体に重きが置かれている。

 しかし、現実社会では、三角関数微分関数の複合問題を解くこと自体が役に立つ職業につく人はむしろまれで、ほとんどの人は、学生時代に解いたひとつのパズル的なもので終わってしまうのが実情かもしれない。また、仕事について、ビジネスマンとなった時、ほとんどのプロジェクトは、一人ではなく、複数人と協力して、達成に向かい、努力をすることになる。しかし、社会に出るまでに、そのすべを学んでいる人は、どれだけいるか、と思ったら、はなはだ疑問である。

 私自身の経験になるが、大学の授業で、グループ学習でのレポート問題に取り組んだことが何度かあった。しかし、そこで適切なテーマ設定、役割分担、統合などができていたかというと、全くそうではなかった。話がまとまらないからということで、私が一人でやった、というものもあった。
 
 また、教育実習のときに、他の実習生の研究授業を見せてもらった。その授業は生物で、実験の授業だったが、自分の高校時代が思い出された。そのときもやはり、分担というのがあまりできずに、目の前にあることを適当にやって、その結果失敗したり、時間がかかりすぎたり、ということがあった。

 もし、複数人による問題解決のすべを学んでいなかったら、いわゆる能力の高い人、権力の有る人、多数決の原理によってすすんでしまったり、意思決定のミスが生じたり、役割分担ができずに、負担の差が生じたりしてしまうことになると思う。

 数学というのは、思考ツールだと私は考える。しかし、現今の数学教育では、その思考は、個人レベルでなされ、その解法プロセスが正しいか間違っているかを教えるのが教師の仕事になっていると思う。

 受験数学の問題を解くという視野で見た場合は、それでもいいかもしれない。しかし私は、数学の答えがどうか、というのも大事だが、どのようなプロセスでその問題を解決していったかが、より大事だと思う。

 そして、その解法の正当性を明らかにするのが、数学、特に論理学だと思う。そして、その論理を元に、人は意思決定や問題解決をしていくことが、大事だと思う。

 そこで私は、以下の3つを柱に、研究を進めていきたいと思う。

 まずひとつには、当然だが、数学である。いわゆる学習指導要領などを参考にして、数学教育ということについて、自分自身がよく理解して、自らの研究の土台を作りたいと思う。また、近年、数学基礎という科目ができ、日常生活と数学とのかかわりについて、学ぶことが出来るということも聞いたことがあるので、そのあたりも学んでいきたいと思う。これらはいわゆる、各教科に対する知識で、Case by caseのことだと思う。

 また、その根底にあたる、論理学についても、学んでいきたいと思う。しかしそれは、いわゆる日常論理の方に力をそそぎ、数理論理を日常に応用するということについて、学んでいきたい。たとえば、言語の変換である。数学の、ならば、では論理展開がうまくいっても、その言葉を変えただけで、論理展開が出来なくなるというのは、数理論理を日常の論理に生かしきれていない典型例であろう。

 二つ目には、ビジネス、つまり、社会で生きていくために必要な能力というのも、学んでいきたいと思う。たとえば、リーダーシップ、マネジメント、問題解決、意思決定など。これらを学ぶことによって、社会に出た時に必要な能力を知り、数学教育の場で、それらを養うことの出来るような教育が出来るようになると考えるからである。最近、教師が一般企業に、研修か何かで学びに行くということを聞いたことがあるが、生徒のうちで、学校以外の社会に出る人のほうが、圧倒的に多いので、私は非常に必要なことだと思う。

 三つ目に、これが本題なのだが、認知心理学、特に意思決定、問題解決における認知心理学について、学んでいきたいと思う。先ほど述べた2つをもとに実行しようとしても、そこには時として、間違った意思決定、問題解決というエラーが生じる。それは、間違った選択をしようとしての結果ではない。正しい選択をしようとしたのだが、起こる問題である。個人レベルにしろ、集団レベルにしろ、人間心理によるエラーを無視して考えられる問題ではない。一つ目、二つ目に学んだことをベースとして、発展させていきたいと思う。

 今まで、演繹的推論、帰納的推論、確率判断、意思決定と勉強してきたが、それはすべて、論理的思考をして、正しい結果を出せるはずなのに出せなかった、そこにおける心理的側面についてのことである。これは、個人レベルの内容だが、最終的には、集団レベルにおけるエラーと意思決定、問題解決について、研究できるようにしたい。

 そして、複数人による意思決定、問題解決などの社会的能力の育成の出来る数学教育ということについて、研究していきたいと思う。